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Memory
【純愛 恋愛小説】

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Memory-11

俺達はフロントでバケツを受け取り、海岸沿いの道を手を繋いで歩いた。真っ白な砂が暗いオレンジ色に染められ、足に絡みつく。東側の海岸なので、沈む太陽は見えない。
『ねっ、貝殻見つけようよ。』
『貝殻ぁ??』
俺は怪訝そうな声をあげる。
『じゃあ、どっちが綺麗な貝殻見つけれるか、競争ねっ。』
そんな俺の口調を無視して、楓は砂にうずくまり、手探りで貝を探し始めた。おい!勝手に決めんなってー。
『しょうがねぇなぁ。』
楓の隣で俺もうずくまり、貝殻を探し始める。
『なかなか良いのない〜!!』
しばらく探してた後、楓がなげいた。そりゃそんなに簡単に綺麗な貝なんて…
『ん??』
何かがカツンっと指先に当たった。俺はそれを砂から拾いあげる。
『楓、手出して。』
『え?』
『いいから、手出して。』
『えっ?えっ…あ…はい。』
戸惑いながら楓は両手を差し出した。
『コレ、やるよ。』
俺は、さっき拾ったソレを楓の手に落とす。
『わっ…。綺麗…。薄ピンク色だぁ。』楓は感嘆の声を上げる。それは透き通ったピンク色の小さな貝殻だった。
『涼介…ぁりがと。』
楓がはにかんだように言った。頬が赤く染まっている。それが夕焼けのせいなのか、俺にはよく分からなかった。

『俺の勝ちだな。』
笑顔で俺が言うと、楓もそうだねと笑った。
『火花が俺に飛ぶっつぅの!!』
『だって、コレ…キャーッ!』
意味不明な言葉を楓があげる。何本も同時に手持ち花火をつけたせいで、火花の方向に制御ができなくなっているようだ。
『だーっ。もう!』
バシャァ、という音と共に、火花の明かりと楓のおたけびがフッと消えた。
『あたしにもかかったじゃんか〜。』
俺の持つバケツを指差して、楓が膨れる。命の恩人(?)に対してその態度はねぇだろ。
『あのな〜10本じゃなくて、せめて5本までにしろっ。』
さほど怒っているわけでもないのに、キツイ口調になってしまった。
『…はぃ…ごめんなさぃ。』
楓はしゅんとして、散らばった花火をかたづけ始めた。やっぱり口調きつ過ぎたかな…。
『このデッカイの打ち上げてみる??』
楓の様子を伺うように俺が言うと、彼女はパッと顔を上げ、目を輝かせた。全くこういう事になると子供だよな。
意外と花火セットはすぐに終わり(一辺に色々やってたし)、最後に線香花火が残った。
『はい。涼介の分。』
笑顔で楓が俺に花火を渡す。
『やっぱり花火の締めくくりはコレに限るよな〜。』
線香花火にライターで火をつけながら、俺は言った。
『だね〜情緒がある。』
日もすでに落ちていたので、線香花火の明かりは辺りをほんのり浮かび上がらせた。
『単調だけど、色んな光を出してる他の花火より私は好きだなぁ、線香花火。』
『だな、どこかちょっと切なくなるけどな。』
小さな光る玉を見ながら俺は言った。
『まるで人の命みたいだね。』
楓はそう呟いて、少し寂しそうな表情を浮かべた。先端に着いたオレンジ色の玉は懸命に―懸命に身を燃やして、火花を散らしている。単調だけれど、そんな姿を人は美しいと思い、好むのかもしれない。
その時、楓の小さな火の玉が地面に消えた。残った俺の花火だけが、辺りをかすかに照らしている。
『……私が死んでも涼介は、他の誰かを愛し、私の知らない世界を生きてゆくのね。』
一つ残った火玉を見て、楓は切なそうにつぶやいた。胸が痛む…楓の言葉にどう答えていいのか分からない。
『…寂しい。』
楓がまたポツリとつぶやいた。彼女の頬から一筋の涙がこぼれおちる。その瞬間、俺の線香花火も地面に消えた。俺は何も言わずに、彼女の頬に流れる物を、指先でぬぐった。


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