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Memory
【純愛 恋愛小説】

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Memory-12

『お風呂…あいたから。』
『ぉ…おう。』
立ち上がった際に、俺の肘が楓にかすかに触れた。途端に、楓はビクッと震える。
『ご…ごめん。』
俺の対応まで挙動不審になってしまう。
『あ、うん…いいの。』
海岸の帰り道から、楓の様子がおかしい。帰り道、手を繋ごうとしたら思いっきり拒絶された。ともかく、以来俺に急によそよそしくなってしまったのだ。
『なぁ…楓。俺何かしたか??』
俺からすぐにでも離ようとしている楓を、呼びとめる。
『全然そんなことないから…。き…気にしないで。』
そんなん言われても、気になるっつぅの。
『じゃなかったら何で』
『あ、ほら!お風呂冷めちゃうから早く入って。』
俺に最後まで言わせず、楓はそそくさと俺に背中を向けてしまった。何だよそれ…。
ザ〜ザ〜ッ。
風呂のシャワーを冷水に切り替える。冷たい感覚が体中を這う。
何であんな急に、よそよそしくなっちまったんだ?俺がやっぱり何かしたのか?にしても、何だよあの怯えた目…あ〜もう!本当に何だっていうんだよ…。
俺は頭をかきむしる。どんなに思案にふけても、結局答えは見つからなかった。
脱衣場を出ると、楓がルームサービスで食事をとっておいてくれたようで、皿に乗せられたご馳走が、テーブル一面におかれていた。しかし楓は相変わらず怯えたままで、ディナーは美味しかったが、どことなく味気なく終わった。
食器が下げられた後も、気まずい空気が俺達の間を流れたままだった。俺は思い切って沈黙を破ろうと試みる。
『なぁ…。』
『あの…。』
二人の言葉が重なる。二人ともどことなく声がうわずっていた。
『涼介から言って。』
『いや、俺は大した事じゃないから。』
『…………。』
再び沈黙が俺達を包む。これじゃダメだ…何か話しかけなきゃ。俺がそう思って口を開こうとしたその時。
『あのさ…』
楓がどもりながら、いいにくそうに口を開いた。
『付き合ってて虚しくない??』
『は?』
俺の口調が自然と鋭くなる。
『だから…私が死ぬって分かってるのに…涼介はこれから別の人と未来を歩いていく…っていうのも分かってるのに、付き合ってるの虚しくないかなって思って………。』
『…本気でそう思ってるのか??』
俺は尋ねる。―否定してくれる事を願って。
『…うん。』
彼女の返事は俺の望みとは正反対だった。何だか頭が停止してしまいそうだ。
『それで、楓はどうしたい??』
俺はなるべく平静を装って尋ねる。
楓は俺に背中を向けて、小さく、けれどハッキリした声で言った。
『別れたい。』
ズシン―胸に大きな石ころが沈んだような感覚に襲われる。

『…そうか。』
俺はそう静かに言い、立ち上がった。楓は背中を向けたまま、俺を振り返ろうとしない。
俺はドアノブに手をかける。
『もう一度だけ聞く。…それが楓の本当の答えなのか?』
『…そうよ。』
楓はまたもや背中を俺に向けたまま答えた。
『分かった。』
ガチャン、と扉の閉まる音と共に、俺は部屋を後にした。


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