願い-4
「しかし、こんな人形が研究成果とは馬鹿らしい、嘘を並べるにも程がある自分の趣味を隠しおって、しかしどうしたものかな……」
すっかり勘違いされた白衣の男の趣味、もとい私の体はただの人形でしかなく調べても出るのは中身の綿だけである。危険な薬が隠されているのではないかと念の為に解剖されて腹を割かれても痛みがあるわけでもなく、綺麗に縫合された私は私を押収した男の手に戻りすっかり持て余されていた。
「あんな趣味の奴に持たれて可愛そうだなお前、なんというか同情するよ。幸い綺麗に扱われていたようだし、どれ俺が新しい持ち主を探してやるか」
『あらアナタ意外と良い人ね有難う』
聞こえもしない御礼を言うと、男はそのまま私を片手に街へと繰り出した。
「おや、これはこれはマルク家のご主人ではないですかお久しぶりです」
街を歩き始めて十分程経った頃、ふと男の脚が止まるとそのまま高級そうなコートに身を包んだ男に手をあげた。
「あぁお久しぶりですねお元気でしたか?」
その高級コートもといマルクと呼ばれた男も手を挙げ親しげな様子で歩み寄る。
二人は政治、経済に今の治安私には耳が痛くなるほどつまらない話を小一時間程すると会話の話題は男の片手にある私へとやってきた。
「おや人形ですか?可愛らしいですね娘さんはいらっしゃいましたっけ?」
マルクと呼ばれた男が問うと、問われた男は私ごと大きく手を振った。
「いえいえ私のではないのですよ……とそういえばマルクさんにはお一人いましたよね?お嬢さん」
「えぇ今年七つになります」
男の瞳がきらりと光った。獲物を見つけた猛獣のようだとは言いすぎだが、男は獲物を逃さんばかりの勢いで手に持つ私を眼前に突き上げる。
「宜しければお嬢さんに差し上げてください、というか是非とも受け取って下さい!」
「いいんですか?いや実はお恥ずかしながら娘が欲しがりそうな可愛らしい人形だと思っていたところでして、ではお言葉に甘えても?」
「ええ勿論、寧ろマルクさんのお嬢さんでしたらきっと可愛がってくれるでしょうからコイツも喜ぶでしょう」
厄介払いが出来たと言わんばかりの不純な笑顔で男が私を差し出す、それを受け取ると今度は純粋な笑顔が私を待っていた。
男が帰宅した家は豪邸と言っても差し支えないくらいの大屋敷だった。
執事にメイド、屋敷には絢爛豪華な装飾品、マルクと呼ばれた男はどうやら高給取りでマルク家自体が大きな力を持っているようだ。
帰宅したその足で男はとある部屋へと向かった。一度扉を叩くと微かに小さな少女の声が帰ってきた。