陽だまりの詩 17-3
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お父さんは作業着姿のまま、ケーキを三人分持って現れたが、しゃべりながらそれぞれ食べ終わると、何故かあっさりと帰っていった。
何がしたかったんだろうか。
まさか本当に邪魔しに来たんじゃないよな?
ちなみにお父さんはケーキの好みを調べるのが好きらしく、今では俺の分のケーキも、俺の好きな苦めのチョコケーキを持ってきてくれる。
補足すると、奏はチーズケーキで、お父さんはイチゴのショートケーキだ。
いつか俺は“あんたは小学生か!”とツッコミをいれてやろうと、タイミングをはかっているところだ。
あれ?
何だか俺は、お父さんのことばかり考えてないか?
もしかしたら俺は…
いや、いいや。
「また雪が降ってきたな」
俺がそう呟くと、奏も窓の外に目をやる。
「あっ!」
奏は何かを思い出したのか、大きな声をあげた。
「どうした?」
「あの…忘れてたんですけど…今週末はクリスマスでしたね」
「そうだな」
俺は忘れていなかったが、この間“三人でパーティーをやろう”と奏が言ったのが気になって、それ以上言い出さなかったのだ。
実はしっかりプレゼントも用意してたりする。
「一緒に…過ごせますか?」
奏は顔を赤くして上目遣いで言った。
ただ一言、可愛い。
「仕事があるから、夕方からなら」
「よかった」
「レストランでも行くか?」
もうどこも予約はいっぱいだろうから、まともな店には連れて行けないが。
「いえ、今回は病院で」
「…」
「この病室でクリスマスを過ごすのは今年が最後ですし、来年からは春陽さんとどこでも行けますから」
そうだ。
奏は足が治って退院するんだから。
確かに今年が最後だな。
そして来年からは…
「わかった」
俺は笑って頷いた。