陽だまりの詩 16-10
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「お前ら、目ぇ真っ赤だぞ」
戻ってきたお父さんが開口一番、笑ってそう言った。
「…はは」
「えへへ」
俺達の手は、ぎゅっと固く握られていた。
その後、奏は今までろくに寝れなかったらしく、その後はすぐに熟睡してしまった。
「春陽よ」
「はい?」
奏の寝顔を見ながらお父さんは俺の名を呼んだ。
名前を呼ばれるのに慣れると、“小僧”の呼び名が恋しくなるのはなぜだろうか。
「よくやってくれたな」
「いえ…俺は何もできませんでした」
「なんだそりゃ」
「美沙のおかげです」
「…そうかい」
お父さんはなにやら嬉しそうだ。
「俺、頑張りますから。お父さんも見守ってくださいね」
「…なに言ってんだ。俺はまだお前を…」
「へいへい」
「てめえ!」
お父さんを茶化したのなんて初めてかもしれない。
それくらい、気分は高揚していた。
「…じゃあ今日は帰ります」
「…おう、気をつけろよ」
「はい」
***
帰宅すると一番に、美沙の遺骨を目立つ場所に置いた。
目を閉じ、手を合わせる。
美沙、聞こえるか?
俺、頑張るから。
ずっと見守っていてくれよ。
俺はその日、いつまでも美沙に話かけていた。