エス-21
「・・・・・・遠藤先生が君と話したいと」
頷いたエスは黙って立ち上がると電話へ向かう。
思わず加藤の手がエスの腕を掴んだ。
「大丈夫」
振り向かずエスが言い、半ば振り切るような形で電話へ向かった。
エスが遠藤と話している間、誰も話さず、じっと全員がエスを見ていた。
ガシャンと電話を置いた音がして振り返ったエスの顔には笑みが浮かんでいた。
無理して笑っているのか、それとも何か安心する事実があったのか、知る術も無く加藤は苛立った表情をしていた。
「大丈夫。先生はすぐには来れないからマンションで待ってろって」
木村がほっと胸を撫で下ろしたように息を吐いた。
「そうですか。よかった。心配だったんです」
「ありがとう。今はまだ先生とあたしのつながりがばれてないから、あのマンションならセキュリティがしっかりしているから安全だって。ただ・・・・・・」
エスはちらりと加藤を見た。
加藤は話が分からず煙草を取り出した所で、エスの視線に気づき手を止めた。
「何だ?俺にマンションまで送れってか? 」
適任が居るだろうと、木村とエスを見ながら捨て台詞を吐く。
エスは首を左右に振り、答えた。
「違うの。・・・・・・加藤さんも一緒にマンションに居ろって。・・・・・・その、つまり、軟禁状態なんだけど」
申し訳無さそうに言うエスに木村は飲みかけていたコーヒーを吹いた。
隣に座っていた鈴木が慌てて背中をさする。
むせる木村が無理矢理口を開いた。
「・・・・・・それは・・・・・・その、まずくないですか? 」
加藤に伺いを立てるようにちらちらと視線を送る。
何より一番加藤は驚いていた。
咥えていた火のついたままの煙草をテーブルに落とした事にも気づいてなかった。
「煙草、煙草! 」
エスが慌てて近づき煙草を拾って灰皿に乗せる。
少し焦げたテーブルクロスと木村の顔を見比べる。
「・・・・・・あ、すいません。弁償します」
加藤は灰皿の上の煙草を咥えなおし、思い切り吸った。
そして煙を吐く。
沈黙が流れた。
「・・・・・・いや、テーブルクロスはいいですから。その、どうするんです? 本当にエス・・・・・・と? 」
木村はエスと加藤の顔を見比べている。
背中をさすり終えた鈴木も同じように見比べていた。
「・・・・・・いや、だって、指示なんでしょう? もし俺が嫌だと言ったらエスが困る。違いますか? 」
煙を吐いて灰皿に煙草を押し付けて加藤が言った。
「それは、そうですが・・・・・・」
木村も反論できず、俯いた。
エスはテーブルクロスを指でいじっていたが二人の会話に顔を上げ、
「別にあたしは平気だよ? 加藤さんは変な事する人じゃないし」
最後に加藤を見ながら明るい声で言った。
再び沈黙が流れる。
それを破ったのは鈴木で、遠慮がちではあったが行動を起こすには充分だった。