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エス
【純愛 恋愛小説】

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エス-15

「エスは本当に人気者だな」

ポケットからメモが落ちないように押し込んでいる姿を見ながら加藤は言った。
その顔はにやにやと笑っている。
店員がトレーにカフェオレを二杯乗せて笑顔で加藤に渡した。
エスは唇を突き出してむくれ、ポケットにメモを捩じ込むと、さっさと一人で小さなテーブルに向かった。

「おいおい、そんな怒るなよ」

トレーをテーブルに置きながら加藤が向かいに座る。

「怒ってないよ」
「じゃあなんでむくれた顔してんだ」
「…わかんない」

エスはカフェオレを手に取ると口をつけてすすった。
加藤はやれやれと肩をすくめると煙草を取り出して咥える。

「で、さっさとやっちまおう」

床においてあった携帯の入った袋を加藤はテーブルの上に置いた。

「…うん。任せてもいいの? 」

ガサガサと目の前で袋から箱を取り出す加藤を見てエスが言う。
加藤は手を止めてエスを見た。

「ま、どっちでもいいが覚えておくにこしたことは無いと思う」
「うーん…。じゃあ次からはあたしがやる」

加藤はまた手を止めたが何も言わずに携帯の初期設定を行った。

20分後。
大量のメモも記憶させ加藤はエスの手に携帯を置いた。

「これで使えるだろ。お前のアドレスと番号は、これ」

胸元からペンを出して紙ナプキンにさらさらと書き出す。
エスはそれも受け取ってうなずいた。

「使い方は説明書でも読んで勉強してくれ」

ほい、と、箱やら説明書やらを戻した紙袋を手渡す。

「加藤さんにもメールしていい? 」
「ん。ああ、もちろん。俺のは加藤ってので入ってるから」
「分かった」

エスは携帯を見た。
まだ触ったことのない、それ。
使い方は未来を見ているから知っている。
いつメールをするか、とかも、分かっている。
けれど、実際にその未来が来てしまうと、やはりどきどきするもので、にこにこと笑っていた。
加藤はぬるくなったカフェオレに口をつけた。
二人に話題は無くなっていて、がやがやと店内の音が響いていた。

エスが携帯を開いて画面をいじりながら、口を開く。

「…何か、話してもいい? 取材が終わったから聞きたくない? 」

ボタンを押すたびに、ピッピッと電子音が鳴った。
加藤は飲むのをやめ、カフェオレが入ったカップをトレーに置いた。

「…あのね、あたしの父はあたしが6歳の時に他界したの」

返事を待たずにエスは話始める。
こうなる事を知っていたのだから、返事は要らないとでもいうように。


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