還らざる日々U-2
───
3月とは言え朝はかなり冷え込む。尚美は寒がりのためか、布団の中に潜り込んで眠っていたのに寒さで目が醒めた。
「…何時…?」
目覚まし時計に付いている温度計に目をやった。室温は10℃を示している。
低血圧で寝覚めが悪いのか、彼女はしばらくボーッとしていた。
「…さむ…全く、3月やのになんでこないに寒いんや…」
乱れた長い髪を手櫛で撫でつけ、ベッドから起きるとエアコンのスイッチを入れた。
部屋が暖まるまでの間、尚美は日の当たる窓際にしゃがみ込む。
彼女は寒がりのくせに厚着をして寝るのが嫌らいらしく、いくら寒くても、下着の上に大きめの長袖Tシャツしか着なかった。
〈ア…フゥ…〉とアクビをしながら尚美は立ち上がり、シャツを脱いで部屋着に着替える。部屋が暖まってきた。
彼女は壁時計に目をやった。朝の9時40分。
「まだ、早いか…」
独り言の後、キッチンに行って食パンをトースターにセットする。
パンが焼けるのを待つ間、コーヒーとジャムを用意した。
やがて、トースターが焼き上がりを知らせた。
香ばしいトーストとコーヒーにジャムをトレイに乗せると、部屋のテーブルへと運んだ。
部屋は十分暖かくなっていた。カーテン越しに朝日が差し込んでくる。
尚美はエアコンを止めると厚手のセーターを着込み、テレビを見ながら遅い朝食を摂り始めた。
普段あまり見ないためか、しばらくテレビを眺めるが、ろくな番組が無い。
仕方なくテレビを切って朝食に専念する。
身体も温まり、食事も摂ってようやく一心地ついた尚美は、再び時計に目をやった。10時15分。
〈さすがに起きてるだろう〉と、部屋の片隅に置いた電話を取ってダイヤルを押した。
───
一生が目を醒ますと、時刻は10時を少し過ぎたところだった。となりの聡美はまだ寝息を立てている。
ひとつの布団に寝ているので、彼女の顔はほんのそばだ。寝息が彼の頬をなでる。
聡美を起こさないようにそっと布団から起き上がり、音を立ずに着替えると、玄関を出て朝食を買いに出掛けるのだった。
「ごめんなさいね。あのコ、昨日から帰ってないのよ。
どうせ友達と飲み歩いて、夜中になったから泊まってると思うんだけど…」
ある程度予想していたが、一生の母親の言葉に尚美は落胆した。
「そうですか…分かりました。改めます。失礼しました」
受話器を戻しながらため息を吐いた。
「アイツ、私を放っといて。こんなエエ天気やのに飲んだくれて…」
再び、独り言が口をつく。