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過ぎ去りし日々
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還らざる日々U-1

「…私…北海道に行くの…」

 聡美は俯いたまま泣きじゃくる。驚きの言葉に、一生は何も言えずにしばらく聡美を見つめていた。

 頭の中では〈何故だ〉と叫びだしたい衝動にかられた。
 しかし、一生は押し止まった。

〈聡美も苦しみながらも出した結論だ。快く送り出してやらねば〉

 すぐにそう考えた。

「良かったな。就職おめでとう。…辛かったな…オレに言うのに苦しい目に会わせてしもたな…」

 にこやかな表情を彼女に見せる一生。その目は潤んでいた。
 聡美はそばに寄ると、両手を伸ばして彼に抱きついた。
 激しい泣き声を隠すように、彼の胸に顔を埋める。一生は泣き続ける彼女の頭を優しく撫でた。

「ホラ、せっかくのお祝いに涙は禁物や…」

 聡美は、涙声で話掛ける。

「…私、嬉しかった…お風呂場で〈いずれ一緒になるんだから〉って言われた時、本当に嬉しかった。
 でも…今のままじゃ、あなたに頼ってばっかり……だから…」

「もう言うな。まだ、ひと月あるんや。なぁ、それを思いっきし楽しもやないか」

 彼女は顔をクシャクシャにしながら笑った。一生も笑顔を浮かべる。

「そう、その笑顔や。泣いてるヤツに神さんは微笑んでくれんど」

 聡美はしがみついていた一生から身体を離し、ようやく涙を拭いた。

「…私ね。北海道行きを決めたのは2日前なの。でも、絶対反対されると思ってた。
 だから、あなたに会うの本当は怖かったの…」

 彼女の言葉に頷く一生。

「確かに聞かされた時は、頭ン中真っ白になって、次の瞬間に〈なんでや!〉と、思た。
 せやけど、もし逆の立場やったらと考えた。
 オレなら〈笑って送り出して欲しい〉と思たんや…」

「なんだかスッキリした。ちょっと顔洗ってくるね」

 彼女は立ち上がると洗面所へと向かった。一生も立ち上がり、冷蔵庫からビールとチューハイを持ってテーブルの上に置いた。

 しばらくすると、さっぱりした顔をした聡美が戻って来た。

「最後の1本づつやけど祝酒や。これ飲んで寝よ」

 缶を開けて重ね合わせる。互いが目を細めていた。

 2人はそれを飲むと、布団に潜り込んだ。アルコールと深夜である事が重なり、2人はすぐに眠ってしまった。


 外の凛とした空気の中、月だけが辺りを照らしていた。


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