桜が咲く頃〜ある日の出来事〜-3
『うまい…』
『良かったぁ。
俺、ここんちの団子が一番好きなんだ!』
そう言うと、矮助は嬉しそうにもう一皿注文した。
その喜びようが、とても子どもっぽかったので、鈴は少し笑ってしまった。
『何?』
不思議そうに聞く矮助。
『いや、何でもない』
笑いはすぐに消えたが、矮助は、最近元気のなかった鈴が、少しでも笑ってくれたのがとても嬉しかった。
『そっか』
矮助は笑顔で鈴を見つめる。
鈴は急に恥ずかしくなって、団子を食べることに専念した。
それからは特に話すことなく、団子を食べながら、行き交う人々を眺めていた。
人々の賑やかな声が心地よく、二人、のんびりとした時間を過ごした──
団子屋を後にした二人は街をぶらぶらした。
季節の移ろいを感じながら歩いていると
『少し、金を貸してくれないか?
後でちゃんと返す。
給料から引いてくれて構わないから』
鈴が突然そんなことを言い出した。
『いいけど。
どうした?急に』
『買いたいものがあるんだ』
『何を買うの?』
矮助の問いに、鈴は指を差した。
その指の先には、こんぺいとうがあった。
矮助はくすりと笑い
『いいよ、これぐらい。
どれがいい?』
そう言うと、先に店の前に行く。
慌てて鈴も後を追う。
結局、団子もこんぺいとうも、矮助におごってもらった。
鈴は、屋敷に帰る途中の大きな橋の真ん中で止まり、欄干に近寄ると、懐からさっき買ってもらったこんぺいとうを取り出し、一粒川に投げた。
矮助が驚いて見ていると、鈴はまた一粒川に投げ入れた。
それを2、3度繰り返すと、両腕を欄干に乗せ、もたれかかった。
『人は、死んだらどうなると思う?』
『え?』
鈴の突然の問いに驚く矮助。
『あの世というものはあると思うか?』
矮助は鈴と同じように欄干に寄りかかり
『俺は、あってほしいな』
鈴は矮助を見る。
矮助は前を見つめながら続ける。
『痛みも苦しみも悲しみもない、そんな世界があったらいいなと思う。
あの人は…』
矮助はそこで言葉を切った。
なんとも言えない表情…