一夜-4
「苦……し、い。あ……さ」
「姉さんはいった事あるの?」
私の身体は完全に束縛され、今度は安里が私を押し倒す。首筋を舌でなぞりながら胸元に手をかけた。
「やめ」
最後まで言う事を許さず、安里の唇がまた重なってくる。その下で、襟元を掴んでいた安里の手がブラウスを引き裂いた。取れたボタンのフローリングを打つ音が虚しく響く。
「いや、安里」
「いや?じゃあ俺のこと押し退けて」
安里は束縛を解き、床に手をついて私と向かい合う。
できないよ、もうごまかせない。止められない。お父さん、お母さん、ごめんなさい。どんな裁きでも受けますから……この人を愛してはいけませんか?
ここだけが時間が止まったように、遠くで雨が降っている事も、雷が鳴っている事も気付かずに、私は安里の身体の中に溶けていった。
もう何度いった事か分からない。暗い静寂の中で窓に目を遣ると、まだしとしとと雨が降り続けている。
私は安里の身体を求め続けた。キスや愛撫の痕ではすぐに消えてしまう。そんな物よりもっと確かな、私と安里の身体に深く刻み込まれる刻印を残したい。その為には一度や二度のセックスでは足りない。
「いって。何回でもいって」
安里は私の足を持ち上げて陰部に顔を埋める。今彼とこうしてると、ふと私達は姉弟で良かったと思う自分がいた。
この領域には誰も踏み込めない、私と繋がっている安里の身体には私と同じ血が流れている。決して他人にはない、私の一部。そんな恐ろしくも醜い感情が、更に安里への愛を加速させる。
「……泣いてるの?」
安里が私に顔を寄せる。私の目尻から涙が零れては、また滲んでいく。
「どうした?」
安里の唇が私の瞼に触れる。
「私、どんな罰でも受けるわ。あなたとこうなれたんだもん……これ以上の幸せってある?」
安里は笑いながら私の髪を撫で、おでこにキスをする。
「姉さんのドレス姿は綺麗だろうね。子供もきっと可愛い」
「名前は安里が決めるのよ」
私達は冗談を言い合い、笑い合う。さっきお湯にかかって火傷した安里の腕にキスをする。
「俺はもう何もいらない。失うものなんて何もないんだ。姉さん、罰を受けるなら俺も同罪だよ」
「いいわ。あなたと一緒なら何も恐くないもん」
安里は苦笑いを浮かべる。
「姉さん、愛してるよ。この世で誰よりも。愛してる……愛してる。幸せになるんだ、誰よりも」
鼻を擦り寄せ、おでこをくっつける。安里を私の中に入れ、私達はひとつになったまま深い眠りの中に落ちていった。
鳥のさえずりによって起こされた。ふと見ると毛布が掛けられている。安里だろうか。私は適当に服を着て安里の姿を捜した。
「安里?」
安里の部屋を開けると、人の姿は愚か、人が住んでいた形跡すらなくガランとしてる。嫌な予感がした。変に胸が高鳴る。
私は部屋の中をぐるぐると歩き回った。お風呂にもトイレにも私の部屋にも安里の姿はない。出掛けたんだろうか?いや、そうだ。きっと出掛けたんだ。私は胸に手を当て、深呼吸を繰り返した。
その時携帯が鳴った。安里からだと思い、私は急いで電話を手にする。
「安里?」
「……その安里から電話が繋かってきたのよ」
「お母さん」
声の主は、もう疎遠になりかけていた親からだった。
「電話って、どんな用件で?」
唾を飲む。まだ何も聞かされてないのに、受話器を持つ手が震えている。