一夜-2
「最近元気ねえな」
恭介が煙草をふかしながらぼやいた。私は裸のままベットに寝そべりながら恭介の部屋を見渡した。殺風景な部屋だ、といつも思う。安里が家に来てからは恭介をあまり部屋に入れなくなった。する時は何時も恭介の部屋かホテルと決めている。なのに、この前は自分でも安易だったと後悔した。強引に私を求めてくる恭介を許してしまった。結果、安里が帰ってきてその声を聞かれる羽目になった。どうでもいいじゃんと、頭では開き直っても、心はそうはいかない。
安里を忘れたい。けど、離れたくない。
私は恭介がくわえている煙草を取り上げて灰皿に押し付けると、彼の上に跨がり入れてもないのに腰を振った。
「何だよ、急に」
恭介は私の背中に手を回し起き上がると、乳首の周りに舌を這わせる。空いてる片方の彼の手を掴んで自分の陰部に運んでいく。煙草の味がする恭介の舌と絡み合う。瞳を閉じると安里が浮かんだ。
セックスは刹那だ。
永久に私の中には残らない。ひとつになった事も、身体の奥から湧き出る熱い熱も、求め合うすべての感情が、その刹那で終わってしまう。
私は恭介の上で一心不乱に腰を振った。寝ては覚める夢の中に、何度も落ちてしまいたかった。
恭介の部屋を後にした私は、タクシーを拾ってマンションの下で降りた。バッグの中を掻き回しながら鍵を探す。見つからない、家の中に忘れてきたんだろうか。
安里が居るだろうと思いチャイムを鳴らすが応答がない。
出掛けたのかな……。 まさかのつもりでドアノブに手をかけると、ドアはすんなりと私を部屋の中へ招いてくれた。
「安里……いるの?」
返事はないが、奥でなにやらガタガタと聞こえる。安里の部屋と思い、私は扉をノックした。
「安里?いたんなら開けてよ。何回もチャイム鳴らしたのよ」
いやっ、と、小さな呻き声が漏れた。私は耳を疑った、間違いなく女の声だった。
「はあ……ん、だめ……聞こえちゃう」
「声出さないと止めるよ?」
女の甘ったるい泣き声、生々しい肉を打つ音。ノックをした手が震えていた。
安里が女を連れ込んでる……そんなのは当たり前の事、好きな人くらい安里にだってできる。だけど、でも……世界が歪んでいく。目の前が真っ暗になる。私は堪らず自分の部屋に駆け込んだ。布団を頭から被り、強く目を閉じる。
――自分達が異常な事してると思わないの?
お母さんの言葉が頭を過ぎった。『異常』という言葉がその時から胸に突き刺さって取れなくなった。
――父さんもな、お前らの年の頃は異性をよく意識するようになって。その何て言うかな、気持ちをどこに向けていいか分からん時期があったよ。恥じらいもあるし、複雑なもんでな。けど、一線というのは引かなきゃならん。お前らが仲良しなのはいい事なんだ、がしかし、それは『姉弟』としてだ。罪は犯してはならん。それは決して許されない事で、誰も認めてはくれないんだ。
お父さんは冷静に、慎重に言葉を選んでいた。けどその姿が私の心に亀裂を走らせた。私と安里がこれ以上の関係になると、お父さんとお母さんは私の前から居なくなる。私は顔を覆った。
嫌だ、嫌だ。こんなに苦しい思い、もうしたくない。胸の痛みが布団の中で響く。