特進クラスの期末考査 『淫らな実験をレポートせよ』act.8-16
お互い一言も話さず服を整えた。
特に大河内は自分の始末が終わると、すぐさま煙草に手を伸ばし紫煙を燻らせる。
愛美はそんな様子を、どこか生気の抜けた様子で見ていた。
「お前は隙がありすぎんだよ」
未だに怒りの炎を燻らせる大河内が苛立った様子で言った。
「自分を犠牲にすれば全て丸く収まるなんて偽善だ。端から見たら八方美人でただの男好きだ」
ぐさり、ぐさり、と弱った心に言葉が突き刺さる。自分では認めたくない痛いところ、手加減無しに貫いていく。
解ってる、言わなくたって一番自分が解ってる。
誰かの為、って自分を偽って。一人は嫌だから手を差し延べて。自分を優位に立たせる、そんな狡くて醜い自分を嫌って程解ってるんだから……ッッ
「自分が優しくされれば、誰だってよかったんだろ!!?」
珍しく出した大河内の大きな声に愛美の勘忍袋も音を立てて切れた。
「うるさいッ」
制服を整えた愛美が、よたつく足で立ち上がった。握り絞めた拳は白く、怒りに震えていた。
「偽善的でどうせ最低なのよ、あたしは!!!!」
投げ付けるように叫ぶと、耐え切れなくなった涙がぼろりと零れた。
「……優しくされるのは、誰でも良いわけないじゃない。あんたに言われたくない」
言って逃げるように準備室から出て行った。
涙は後から後から零れてくる。本心を突かれるより、疑われる方が痛かった。
心の奥の方が刺されたように痛い。息も出来ないほど苦しい。
身体よりも、数倍。
雨が頬に落ちて来た。
見上げた空はいつの間にか雨雲に支配されていて、雨の匂いで溢れている。
「……夕立、」
降る音が次第に激しくなる。雨粒が大きく、勢いも強い。肌に刺さる雨粒。涙が止まらない。
自分は頭の良い部類だと思っていた。愛美はぐじぐじとそんな風に思う。
恋なんてあんなに馬鹿にしてたのに。
周りの女子がきゃあきゃあと恋の話に夢中になっているのを、愛美はいつも冷めた目で見ていた。下らないとさえ思った事もある。
なのに。
「………ばか」
雲が厚くなり、遠くで雷の音が響く。
そのまま、息吐く間も無く、夕立が愛美を洗い流していった。