投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

Not melody from you
【その他 恋愛小説】

Not melody from youの最初へ Not melody from you 11 Not melody from you 13 Not melody from youの最後へ

Not melody from you
:Side-heavy
-5

シンフォニアフォレスト


森林浴に行こうか。
彼と久しぶりに休日が合った今日、いきなり、彼がそんな事を言い出した。
でも森林浴ができる所なんて、私、知らないよ。
彼の突然の言動に私が少々驚きながら言うと、彼は大丈夫、良い所を知ってるから。と言って戸惑う私を車に押し込み、車を小一時間程走らせて、彼の言う森林浴ができる森、つまり此処へ私を連れて来た。
なるほど、良い所だ、とうのが車から降りて森と周囲を見回した時の私の第一印象だった。
森は一見鬱蒼として深そうなものだったが、私はそれにどこか他には見られない清廉さと美しさ、そして静寂さを感じた。
周囲にはあまり民家が無く、道もあまり整備されていなくて、それは昨今の時代に似つかわしくない「村」という言葉がふさわしい。
そのくせここを通る人が多少はいるのだろう、森の奥へ雑草の少ない土の平らな道が通っている。
喧騒の無い静かな場所に、深いけれど拒む事をしない森が一つ。
それはまるで誰かがそこにそうなるように用意したモノの様に整っていて、来たばかりだと言うのに私は此処がかなり好きになった。
私達は時々聞こえる名前も知らない鳥の鳴き声やハラハラと落ちる木々の葉に誘われるように、森の中を連れ立って歩き始めた。
「ここはね、ぼくが昔住んでいた所の近くなんだ」
私が目についた草木について手当たり次第質問するなかで、彼はそう言った。
「じゃあ、此処にも良く来たの?」
「うん、小さい頃はここがぼくの遊び場だった。一日中走り回ってたな」
「へえ、良い所だもんね」
無邪気に遊び回る小さい頃の彼を想像して、私は少しおかしくなった。
今の物静かな彼からはあまり想像できない。
それができたのは多分、今この森に私が実際立っているからだろう。
「子供の頃、ここは子供達の間で名前が付いてたんだ」
「どんな?」
「トトロの森」
「あはは」
私は笑った。
あまりに単純で、しかし素直な、子供達らしいネーミングだった。
「何でトトロの森って呼ばれてたの?」
「それはもう少し行けば分かるよ」
彼がそう言うので私は以降その事には触れず、また矢継ぎ早に彼に草木の事についての質問をした。
彼はこの森についてよく知っていて、私の質問にまるで本をそのまま朗読するようにどれも的確に答えてくれた。
そうしながらまたしばらく歩いていると、道が僅かづつだが徐々に開けて来て、代わりにとんでもなく大きな樹が、私達の目に飛び込んできた。
私がそのあまりの大きさに呆然としていると、彼がこっちこっち、と案内して、私達は大樹の根元に立った。
見上げてみると、本当に大きい。
私が今まで見て来た木やその周囲に生える木が、これと比べると子供のように見えてくる。
幹は太く力強く、私たちの遥か頭上にある枝についた葉は密集して大きな大きな木陰を作り、そしてその中を辛うじて抜け出した淡い緑色の木漏れ日が、ユラユラキラキラと静かに光っている。
それはまるでどこかの神話に出てきた根元に悪魔を、葉に神々を住まわせる世界を支える柱のようだった。
そのあまりの美しさに、私は神々しささえ覚えた。
この森も確かに美しいが、それでもこの大樹を根付かせるには不釣り合いなように思えた。
森の木々は自然にそこに生えたのではなくこのあまりに美しい大樹に寄り添いたくてここに集まって、それがやがて森となった、そんな気がした。
ここの森の長は君?
私は心の中で大樹に話しかけた。
返事の代わりに大樹はザワザワと枝を揺らした。
「この樹にも名前があるんだよ」
彼はそう言って大樹の幹を撫でた。


Not melody from youの最初へ Not melody from you 11 Not melody from you 13 Not melody from youの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前