陽だまりの詩 12-5
結局、お粥は自分で冷まして平らげた。
「うまかったー」
「お粗末様です」
美沙はすぐに食器をキッチンに持っていく。
「美沙、ありがとう」
「いいから、もう休みなさいよ」
「お、おう」
「兄貴に早く治ってもらわないと…またいろいろ頼めなくなっちゃうからね!」
「…そうだな」
俺は笑って布団に潜り込んだ。
しばらく眠れずに目を閉じていた。
内容は聞き取れないが、二人は楽しそうに会話をしている。
俺は…このささやかな幸せをずっと…
そんなことを考えているうちに、ふっと意識は飛んだ。
***
「……」
ゆっくりと目を開ける。
もう見慣れた天井が視界に入る。
この部屋で寝ることなんてほとんどないし、普段の生活で天井を見ることなど滅多にないので最初は違和感を感じていた。
「っと」
嫌に家が静かなのに気付くと、ゆっくりと起き上がる。
「あ…起きなくて大丈夫ですよ」
奏は枕元に座ってくれていた。
「…美沙は?」
辺りを伺うが気配はなかった。
「美沙ちゃんなら、冷蔵庫の中が寂しいからスーパーに行ってくるそうです」
寂しい…意味は通じるが妙な表現だな。
「そうか、もうずっと買い物に行ってなかったしな」
「…お粥、おいしかったですか?」
奏は困ったような顔で言う。
「え?ああ、うまかったよ」
「ふふ、あれ、美沙ちゃん一人で作ったんですよ」
「そうなのか?俺には二人で作ってるように見えたけど」
「私は卵を割っただけです」
奏は笑いながら言う。
「私、料理なんて全くできないですから」
「そうなのか」
「だから、美沙ちゃんがうらやましかったです」
「…」
「私も春陽さんに毎日ご飯を作ってあげたいです」
自分で言っておいてボッと顔を赤くする奏。
「美沙ちゃんには嫉妬しちゃいます」
「…まあ、そうは言っても俺たちは所詮兄妹だからな」
「私には、お二人の関係はただの兄妹には見えませんよ」
「…」
また奏の変なスイッチが入ったな。
「お二人には強い絆と信頼を感じます」
「家庭環境がすごかったからなー。そりゃ仲良くもなるって」
そう言ってはぐらかすが、美沙が前に変なことを言っていたのを思い出す。
「……タオル換えますね」
「あ、さんきゅ」
すっかり温くなったタオルを奏が取ってくれる。
「……まだ熱いですね」
「…」
奏は顔を赤くしながら俺の額に手を乗せる。
「……」
「……」
そのとき、二人の視線が重なった。