「とある日の霊能者その５」-1
「仲里ー！こっち手伝ってくれー！」
「おう！すぐに行く！」
「おい、これ誰か出来るか？」
「あ、それならボクがやるよ」
「水上ー！こっちの作業をほっぽりだすなー！」
「加藤！てめえも煙草ふかしてんな！先生に言うぞこらぁっ！」
「お前は小学生か！そして俺は間違いなく煙草を吸ってない！」
「あれ？佐藤だったかな？」
「加藤と佐藤間違えんな！」
「仲里くんー！こっち！」
「って、こんなの俺だけじゃ無理だろ！」
「じゃあボクも手伝うよ！」
「だから水上は作業ほっぽりだすなー！先生に言うぞこらぁっ！」
「あー、つっかれた……」
本当に疲れた。まさかこんなにも疲れるとは思っていなかったから、正直驚き。
「ああ、疲れたな……」
隣に座る仲里くんもお疲れの様子。ま、あんだけ走り回ってりゃそうもなるよね。かなりクラスにも馴染んだみたいだし。
それより、ボクはすぐ傍に仲里くんが居る、この事に心臓バクバクなわけですが。
ボク達はさっきまで文化祭の準備をしていた。なんてったって、年に一度のお祭りなんだから、皆、気合いも入る入る。目まぐるしいって、ああいう事を言うんだと思うよ。
で、ボク達のクラスは「より高いクオリティを！」との事で、物凄く凝った物を作ってた。それに時間がかかって、今日――文化祭前日までかかってしまった。まあ、クオリティが高いっていうのは良い事だろうけど、こんなにも遅くなるなら、低くても良いかなって思えちゃう。達成感はあるけどね。
そして、明日は午前の役目が終われば、ボクは自由の身だ。仲里くんも同じく。だから、仲里くんと回りたいと考えていて。それでも勇気が出なくて誘えなくて。
疲れ切った仲里くんが傍に居る。誘うなら今しかない。だけど、やっぱり勇気が出ない。
「っと、やべ」
と、急に仲里くんが声をあげた。それにびっくりして飛び上がりそうになったボク。
どうしたのかな、と思ってそちらを見れば、
「学校の備品なのに持ってきちまった」
仲里くんの手には鋏があった。どうやらポケットに入れたままにしてしまっていたらしい。
「ちょっくら戻してくるよ」
そう言って立ち上がる仲里くん。
今、校舎には人が残っていない。完全に、というわけではないけど、殆どの生徒は帰宅している。疲れたんだから当たり前だ。ボク達は疲れすぎて立つ事も怠かっただけだけど。
「じゃ、ボクも付き合うよ」
こんなところで仲里くんを一人待っているのも退屈だ。どのみち一緒に帰ろう、と勇気を振り絞って言う予定だし、付き合う事にした。
「悪いな」
仲里くんは笑いながら同行を許してくれた。
校舎に向かいながら思ったけど、仲里くんはかなり疲れた様子だ。歩くのも怠そう。それはボクも変わんないけど。
だから、少しでも負担を減らしてあげたいと思った、けど、ボクに出来る事なんて、たかが知れてる。まさか、仲里くんをおぶれるわけじゃないし。それでも、なにかしてあげたかった。
そう思っていると、
「おっと」
仲里くんが鋏を落とした。相当疲れている証だ。しゃがむのも怠そうにしている。
これだ。
ボクはすぐにその鋏を拾ってあげた。これで少しでも負担が減ったらいいんだけどな。
「あ、悪い」
仲里くんはありがたそうに笑ってくれた。
その笑顔を見て。
ボクは本当に嬉しかった。
なのに、何故か突然、目の前が遠くなった。大穴に落ちていくような感覚がボクを襲っている。
そして、ボクは意識を失った。
その瞬間、仲里くんの声が聞こえたような気がした。