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10年越しの約束
【初恋 恋愛小説】

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10年越しの友情-1

「こ〜う〜き〜君!」
朝、昇降口で靴を履き替える俺の背後から、その声は突如として響いて来た。
「ねぇ、光輝君ってばぁ!」
普段なら嬉しい筈のその呼び名に、朝っぱらから気分を害され眉をひそめる。
(ったく…オマエ、誰だよ?)
「“光輝”で良いよ」
「『“君”付けでそう呼ばれるの、嫌なんだ』でしょ?」
「は?……って、水沢かよ」
振り向いた俺の目に飛込んで来たのは、水沢 絢音(ミズサワ アヤネ)の笑顔だ。
水沢はニターッと意味深な笑みを浮かべたまま、俺へと顔を近づける。

「ふふふ…」
「な、何だよ?」
水沢のその不気味な笑みに、俺の全身に寒感が走った。
強烈に、嫌な予感がする。
「これって正確にはさぁ、『聖以外にそう呼ばれるの、嫌なんだ』でしょ?」
(はぁぁ?)
「んふふ、図星でしょ?もぉっ、瀬沼ってば…それならそうと、早く言ってくれれば良いのに」
「言うって何をだよっ!?てか、なんで水沢が聖のこと知ってんだっ!?」
「あっ、それを訊くの?この絢音様に?聖の親友である、この絢音様に訊いちゃうの?」
(親友…だとぉ?)

頭の中がこんがらがって、上手く整理がつかない。
開いた口がふさがらないとは、まさにこんな状況を言うのだろうか?
水沢といえば、博也の友達の忘れ物女王で…しょっちゅう何かを忘れては、遠いクラスからわざわざ博也の所にまでそれを借りに来る変な女だ。
それがまさか、聖の親友だなんて……
(ありえねぇだろっ!)

「あらあら?その顔はもしかして、“ありえない”とか思ってる?」
(う゛…)
「甘いなぁ、瀬沼ってば…ていうか、なんで気付かないかなぁ?聖って、うちの高校ではかなりの有名人じゃない?10年間待ち続けた相手がこぉ〜んなに近くに居たのに、本当に気付かなかったの?」
(なんなんだよ?いったい)
「まったく…勉強は出来るくせに、そういう事は鈍いんだから。だいたい瀬沼はねぇ……」
呆然とする俺をよそに、水沢は一方的に言いたい事だけをまくし立てる。
会話をしているというよりも、俺が一方的に責められている様なこの状況…勘弁して欲しい。


「はぁぁ…」
(朝から最悪なのに出会したなぁ……)
やっと水沢から解放された俺は、教室に着くや否や、半ば倒れる様にして机に突っ伏した。
まだ1日が始まったばかりなのに、もう既に一週間分くらい疲れている。

(それにしても、聖とあの水沢が親友だなんて…何をどう間違ったらそうなるんだ?)
水沢の話を延々と聞かされた今でも、イマイチまだ信じられない。
どこをどう捻っても、聖と水沢が結びつかないからだ。

「暗いなぁ、瀬沼…何か有ったのか?」
顔を上げると、クラスメイトの世田 陸(セタ リク)と目が合った。
心配そうな言葉とは裏腹に、世田はニヤニヤと、水沢のそれによく似た笑みを浮かべている。
俺は視線を戻して、今日一番のため息を吐いた。


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