10年越しの友情-5
「ほ、本当に?ずっと起きてたの?」
「起きてた」
「私が…ここに来た時から?」
「もちろん」
聖の頬が、これでもかという程にパッと紅潮する。
その心境が手に取る様に…てか、わからない方がどうかしている。
これでは、誰にだって一目瞭然だ。
「ははっ、聖…可愛い」
ついポロッと口から言葉が零れた。まぁ、真実なんだから仕方がない。
聖はその言葉に更に頬を赤らめて、隠すように顔を両手で覆う。
でもその直後、バランスを崩したのか、聖の体がぐらりと大きく傾いた。
「危ないっ!」
言うのが早いか、行動が先か…俺はとっさに聖を捕まえようと手を伸ばした。
だが、座ってたイスが大きく傾き、体勢を立て直すことも叶わずにそのまま聖と一緒に床に投げ出される。
「痛ってぇ……聖、大丈夫か?」
「う、うん」
体のいたる所がズキズキと痛む。まぁ、聖が無事ならそれで良いんだが……
「ありがとう」
耳のすぐ近くで声がして、そのあまりの近さにゾクッとした。
体を少し起こすと、聖のはにかんだ様な笑みが、息がかかりそうなほど近くにあって…しかも、端から見れば、俺に押し倒されたみたいな体勢でそこに横たわっている。
触れた箇所からは、二人分の体温が熱いほどに伝わって来ていて…なんかもう、限界だった。
「聖…」
少しだけ潤んだ瞳が、俺の視線と極至近距離でぶつかる。
ただ、眼鏡のレンズがその間に挟まっているのが、酷く恨めしい。
「眼鏡…ズレてる……」
「ひゃっ!」
俺は、手を伸ばして邪魔な眼鏡を取り去った。
視線が直に絡み合う。
聖の息づかい、その体温…感じられるのはそこに居る聖の存在だけ。
どちらのものか分からない心臓の鼓動が、やけに大きく聞こえて…その瞬間、俺は吸い込まれる様に聖の唇にキスを落としていた。
キーンコーンカーンコーン…
どれくらいの間そうしていたのかは分からないが、チャイムの音が妙に響いて、俺は我に返った。
(はっ、俺…何やってんだよ……)
触れ合っていた唇を離すと、完全に涙目になっている聖が、真っ直ぐにこちらを見つめている。
「あ…ゴメン……」
その視線を直視するのがいたたまれなくて、俺は無理やり視線を外して体を起こした。
気まずい。
キスなんて、するつもりじゃなかった。
なのに、体が勝手に動いて…抑えられなかった。
「まっ、松田っ!ちょ、ちょっと…ま、待ってっ!ダ、ダメ…だってばぁっ!あ゛ぁっ!」
微妙な空気が俺達の間に流れる中、急に、嫌な声と足音が廊下から聞こえてきた。
かと思いきや、次の瞬間、ドアが勢いよく開け放たれた。
博也に遅れて、声の主である水沢が妙に疲れた様子で現れる。