シスコン『第十章』-8
「毎月二十万送るってさ。何考えてんのかね。貯金して車でも買えって?」
二十万…。
生活費差し引いても余るな。
「むこうの生活心配したら、月給料の五分の一だから余裕だってさ。何の仕事してんのかね」
月給百万かよ。
そら余裕だな。
「父さん…私にごめんって言った。謝ることないのにね。…ねぇ秋冬、聞いてるの?」
「なんでオレのパソコンで遊んでんだよ」
「今は関係ないでしょう?」
あぁ、やっぱり最初に突っ込んどくべきだった。
「…大変だろうけど、うれしいこともある」
「うれしいこと?」
「春夏と二人暮らしってのは、悪くない」
姉貴は顔を赤くした。
「そ、そうだね。でも、絶対作山とかが泊まりにくるよね」
確かにやつならやりかねんな。
「だろうな。でも、嫌じゃないのはなんでだろうな…」
「友達だからでしょ?」
「…かな。そうかな」
「そうだよ。秋冬にも、大切な友達ができたってことだよ」
姉貴が微笑んだ。
大切な友達か。オレにとってそれは一生手に入るモノじゃないと思ってた。
でも今は、それは千里だったり、作山だったりするのかな。
「…よく…わからないな」
これは、本音。
そういうのに慣れていないオレの、精一杯の抵抗。
「いつかわかるよ。いつかね」
姉貴はまたパソコンの画面を凝視し始めた。
「……なぁ」
姉貴に話しかける。
「なに?」
こちらを見ずに姉貴は言った。
「…いや、……いや…なんでもない」
「なにそれ」
オレは寝ることにした。布団を頭までかぶり、目を閉じた。
「おやすみ」
姉貴の声がした。
「……おやすみ」
姉貴に聞こえないように、小さく細く言った。
朝起きると、姉貴がオレのパソコンの前で寝ていた。
どうやらオレのオンラインゲームを勝手にやっていたようだ。
マウスを動かしよく見ると、ゲーム内の金が二十万ほど減っている。姉貴の頭を叩き、部屋を出た。
リビングにはすでに親父がいて、新聞を読んでいた。
「おはよ」
「おはよう」
親父がオレを見た。
「朝起きてから時計を一度でも見たか?」
あぁ、見てない。嫌な予感がする。
「いや、見てないよ。でも今それを聞いて、見たくなくなった」
親父が笑った。
「今ならまだ間に合うぞ?」
時計を見た。確かに、ギリギリだ。
「よし、急ごう」
「春夏も起こせよ?」
「いや、放っておく。二十万の恨みは深いんだ」
「二十万じゃあ足りないのか?」
なんの話かと思ったけど、昨日の姉貴の話と符合した。
「ゲームの話だよ」
「そうか。ならいいんだ」