シスコン『第十章』-7
「ただいまー」
家に入ると、親父が迎えてくれた。
「おかえり。久しぶりだな。元気にしてたか?」
オレはカバンを置き、ソファに座った。
「まーね。親父こそ、体壊してないだろうなぁ」
「失礼な。まだそんな歳じゃない」
笑ってしまう。
「秋冬も成長したなぁ。どんどんオレに似てきてる。春夏も、母さんにそっくりだ」
姉貴はオレの正面のソファに座った。
「それは顔?性格?どっちも嫌なんだけど」
「今のを聞く限りどっちもだな」
オレは声を出して笑ってしまった。
「秋冬っ」
自分の口を手で抑える。
「わ、わりぃ」
でも、確かに似てるかもな。
「我が娘はどんどん綺麗になっていくな」
親父は柔らかく微笑んだ。
それは、とても四十超えたおっさんには見えなかった。
「うるさいよ糞ジジィ。私着替えてくるから」
姉貴は二階にあがった。
「いい顔で笑うようになったな、秋冬」
親父がコーヒーを口にした。
「そうか?」
「あぁ、でも春夏に手を出したらだめだぞ」
開いた口が塞がらなくなった。
「お前の今の顔は、春夏を愛してる顔だ。正直に、誠実にだ」
「…でも、姉貴なんだよ、あれは」
「あぁ、お前の姉だ。だがその前に、オレの娘だ」
正直怖かった。親父が威圧的に喋るのは初めてだった。
「わかってるのか?世間に認められず、二人で堂々と外を歩けず、それに…お前達は姉弟だ。オレと母さんより苦労するぞ?」
「…わかってる」
しっかりと親父を見た。
「もう、姉貴以外考えられないんだ」
親父は驚いたような顔をして、そして笑いだした。
「くっくっくっ…本気なんだな、秋冬」
「あっ…当たり前だ!じゃないと…友達にあわせる顔がねぇ…」
親父はコーヒーを飲み干した。
「だったら、今言っとかないと…なあ…」
煙草を取り出し、火をつけた。
「秋冬…父さんなぁ…」
一段と空気が重くなった。いつもそうだった。親父は…
言葉だけで回りを支配する。
「海外に転勤になったんだよ」
その言葉に、よろこんでいいのか、悲しんでいいのか。
言葉を選べずにいた。
親父はそれを察したのか、続けた。
「それでな、母さんが…オレについて海外に行くって言うんだ。だから、四月からお前達は二人でここで暮らすことになる」
「そんな…!」
うれしい?かなしい?まだわからない。わからないけど、
「そんなの…急過ぎるだろ…!!」
わからないほどオレが混乱してるのは確かだ。
「悪いと思ってる」
親父は頭を下げた。
「金はちゃんと送る。十分過ぎるほどに、だ。だから、母さんを連れて行かせてくれ」
「そんなの、拒否するわけない。オレ達の母親である前に、親父の妻だから、親父の好きにすればいいんだよ」
オレは微笑んだ。
「仕事頑張って、母さんとゆっくりしてきなよ」
「……オレはいい息子をもった」
「そんなことない。好きになる人を間違えるような、出来損ないだよ」
それから、会話はなかった。
晩ご飯を食べて、風呂も終わらせ、自室に入ると、姉貴がオレのパソコンをいじくっていた。
とりあえずノータッチで、小説を手に取りベッドに横になった。
「四月から二人って、どーよ」
姉貴が呟いた。オレは無視した。
まだ言葉が見つからないってのもあるが。