彼な私-3
二
恋…愛…love…
―ああ〜なんてすてきなひ・び・き…
いつもの朝なのにいつもとは違う。昨日、私は恋をしたから…
―久々よね〜…1年…半…ぶりかな〜…
一年の時、バスケ部のキャプテンだった三年の先輩に恋して以来。
―あの時振られたのはこの恋に出会うためだったのよ…いやん…
「本田!!」
突然腕を掴まれた。そう、いつもの南原。
「あら、南原センセー…おはよーございまーす」
「あ?おはよう…っじゃない!!こっち来い!!」
「やん…センセー…えっっち…」
私、ないんだけど、胸元を隠した。
「え、あ、すまない」
南原、掴んでいた腕を慌てて離した。
「…じゃあ…しつれーしまーす…」
私、軽やかな足取りで教室へ向かった。
「おはよータケ子」
どきっー
胸を締めつける、心踊らすその声は…
―春樹ー!!
「おっおはよー」
「あれ?今日南原に連れてかれなかったのか?セーラーのまんまじゃん」
「あ、そ、そうなの、なんか〜私の色気に負けたみたい…なの…」
「タケ子君おはよー、やーめっちゃかわいいやんセーラー!!」
二人の空間に入り込んできたのは宇宙人杏。
―でっ出たなっ
「タケ子君似合いすぎちゃ」
「そ、そう?…かな?」
―やめてーその方言語!!狂う、ちゃ、ああぁぁ!!…タケ子しっかりっ
「タケ子の隣いないほうがいいんじゃない?引き立て役になってるよ」
春樹、さらりとスパッといつもの真剣な顔で杏に言った。
「…うわっ本当やん春樹女にきつっ」
杏、私の後ろに隠れセーラーの裾を掴む。
―なっちょっ、ちょっとちょっとっ掴まないでくれる〜?近すぎだしぃ!!
「俺は素直なだけですが」
―とにかく離れてよぉ〜…宇宙人杏!!
「本田!!来い!!」
さっきはよくも、そんな顔をして私を睨みつける南原、大きな足音をたてて近づいてきた。
「…セ、センセ…や…やだぁー…えっち…」
「うるさい、いいから来い!!」
同じ手は二度通用せず、私は南原に連れて行かれた。
―今日はセーラーで過ごせると思ったのにぃ〜…
「…否定してるわけじゃない…」
着替え終わり、セーラーを南原の手に預けた時、南原はポツリと言った。
「は?…い?…」
「いや…個人的にはな…だが…学校(ここ)は男女で分けられてる社会だ。生活指導としての立場もある。まったく…お前を見てると何が正しいか分からなくなるよ…悪いな…行きなさい…」
「は…はい…」
私、ゆっくり南原から遠ざかる。
―…え?…ビ、ビックリしたぁー…あんな風に…でも…嬉しい…
大人に認められたのは初めてだった…いつもは重たく締め付けられる様に感じる学ランが、今日は少し軽く感じる…
しかし…
「ほーんーだー!!お前は列が違うだろうがーー!!」
午後のフォークダンスの練習では南原の耳障りな声が響くのだった。
―いや〜ん…
練習が終わり、みんなが更衣室へ向かう中、私は一人背を向ける。私はいつも校舎の隅のトイレで着替えをする。男子の中ではとても恥ずかしくて服なんて脱げない。でも、女子に混じるには理解が乏しい。だから人気のない校舎の隅のトイレへ行くのだ。
「なぁタケ子」
みんなの波に逆らって声をかけてきたのは尚だった。
「な〜にぃ〜?」
「あのさ、この前言いかけたんだけど…俺前から思ってたんだよなー」
「何を〜?」
「いや…俺の感なんだけど…」
尚、急に小声で耳打ちする。
「何よ〜」
「春樹の好きな奴ってタケ子じゃねーの?」
―え…
ぎゅっと心臓が、かなり収縮した。
「や、や〜だ〜尚」
「タケ子、顔真っ赤、じゃあな」
尚、私の肩を軽く叩くと、いつものにやけ顔で走り去った。
―…春樹が?…私を?…え?…
体育祭の練習で運動したときよりも心拍数も血圧も急上昇。
―だ…だめ…だめ…尚のバカっ…
私、立っていられずその場に座り込んでしまった。
その日の帰り、突然呼び止められた。
―…かっ顔が見れないー…
そう、春樹だ。
「買い物行くからちょっと付き合って」
「…え…う、うん…ちょっと…ちょっと待ってて、着替えてくるから!!」
私、顔を上げずに春樹の脇を通り抜けた。