彼な私-2
昼休み、どこからの情報なのか春樹が1年の女子に呼び出されたと、クラスの半数が見学へと出かけた。
私のお弁当の前には杏と私の二人きりだ。
「…タケ子君行かんと?」
「く…君!?」
「あっ、ごめん、えーと…ちゃん?」
「え、う、う〜ん…いや、何でもいいよ…杏の呼びやすい呼び方で…」
―…何動揺してるの?私…
「うん、じゃあ、タケ子君っち呼ぶね」
「……うん……」
私、小さく頷いた。
「で?タケ子君行かんと?」
「うん…ほら…嫌じゃない?そういうところ見られるの…一年の子もきっと一生懸命で、すっごく勇気出したと思うし、春樹も知られたくないって感じだったしぃ〜結局バレてるけどね〜」
「そっか」
「何?」
私、にやつく杏を下からのぞき込んだ。
「いや…タケ子君が好かれるのわかるなっち思って」
「へぇ!?」
―うっ…
私、慌てて口を塞いだ。
―…ち…調子が狂う…杏…宇宙人みたい…
そう思うのはあの方言のせいだろう。
「春樹も罪作りな奴だよな〜」
「いや〜でも今日のはすごかった」
その時、興奮状態の見学者達が次々と戻って来た。
―ほっ…助かった…
杏と二人きりはちょっと空気が重い。
「もったいねー可愛かったじゃんっちゃ」
戻ってきた尚、そう言いながら私の隣に座った。
「だいだい春樹って女に冷たいのよねー」
「そうそう、きっついこと言うよねー」
夢子と奈美、そう言いながらお弁当をつまむ。
「しっかし、あの一年もやるわ〜」
感心したように言う奈美。
「え?なん?どうしたん?どうなったと?」
杏、三人に身を乗り出して聞く。
「先輩、付き合って下さい」
再現VTRのつもりだろう、夢子が立ち上がり尚に向かって言った。
「あ〜、俺あんた知らないし、ブスとは付き合わねーから、悪いけど他あたってくんない?」
尚も立ち上がり、たぶん、春樹の真似だろう。
―…全然似てないしぃ〜
「先輩、ひどいです。私は先輩が好きなんです!!」
「そう?誰でもいいって顔してたから」
「先輩!!私は…」
「言ってんだろ、ブスとは付き合わない」
「!!っ…バチーン」
夢子、平手打ちを大きく空振りする。
「痛いちゃー」
夢子の仕草を見た杏、自分の頬を手で覆う。
「杏ばかーっちゃ」
尚、杏の頭をこづき再び私の隣に座った。
「でも俺、実は春樹の好きな奴って…」
「俺の好きな奴?」
尚が言いかけたとき、左の頬を赤くした春樹が戻ってきた。
「はれ?春樹ちゃん早かったねー」
春樹、尚を無視してお弁当を食べ始めた。
とくんー…
私、その春樹の姿から目が離れない…
―あ…あれ?あれれ?こ、これって…え?そうなの?そうなの?私…私…春樹が…
徐々に早くなる心臓のリズム…浮き上がった感覚の体…みんなの声が頭の上をかすめていく…それが心地いい…
「……だよな…な、……」
―…恋…よ…
「…な、武彦!!」
「!!っな、何よーバカ!!尚のバカチン!!」
尚から現実世界に引き戻された。
「はぁ!?俺の話聞いてねーからだろ?」
―いや〜ん、せっかくいい気分だったのにーー!!
「尚なんかお弁当あげないんだからぁー!!」
私が恋をした瞬間だった。