彼な私-13
春樹との熱いキス…
あの後、春樹は何も言わず去って行った。
―…なんでキスなんか…
どうして?なんで?私は昨日から、この言葉ばかりが繰り返し頭に浮かんでいるのだ。
もちろん答えなんて出るはずない…出るはずないのに…
―…どうして…?
私は河川敷に来ていた。なんとなく家に居づらくて、だけど行くあてもなかったから。
―…やっぱり面白半分かな…?…怖いもの見たさ…て感じ?
ずきっー
―…あぁ〜…何で傘買わなかったんだろう…ううん…あのコンビニに入らなければ…
「タケ子君っ」
ビクッ
―あっあ、あ、杏っ!!
「なんしよん」
「…い…いや…」
とても顔が見れない。今日の杏の服装は、ヒラヒラのロングスカートにキャミ、だがやはりジャケットを羽織っている。
「あっ、かわいいやろこのスカート」
杏、私の視線に気づいたのかスカートをヒラヒラと揺らした。
「…うん…」
―かわいい…杏が…
「結構飲んだよね〜」
「え?」
「尚ん家でよ」
「ああ〜…うん…」
‘キスして…’
ドキッ
そうだ、思い出した。
私の目が杏の唇を追う。せわしなく動く唇からチラリと見える八重歯、ツヤツヤした唇…ドキン…ドキン…
ゆっくり確実に早くなる鼓動…
その鼓動の音を聞きながら私は杏にそっとキスをした。
軽く触れただけの短いキス…
「…タケ……く…」
―え?…
「あっ、やっ、ごめん」
―ええぇぇぇー!!
私、杏に背を向け駆け出そうとした。が、杏は私の腕を握りしめ引き戻した。
「逃げんでよっ」
杏は目に涙を溜めている。
―ああ〜もうっ、何してるの私っ
私は杏を抱き寄せた。
「…タケ…」
「好き…杏が好き…好き」
「…タケ子君…」
「おかしいよね、女になりたい私が…でも、でも…好きなの」
杏の手が…ゆっくりと私の体を包む。
「…私も…」
!!
「杏っ…」
私は、杏の顔をのぞき込んだ。
涙がこぼれて泣きそうな顔なのに笑顔の杏。
あまりのかわいさに、私はまた杏にキスをする。今度は少し長めのキス…
柔らかくて気持ちがいい。いい匂いにクラクラする。
「…ちょっと…一緒にいてもい?」
うつむいて真っ赤になっている杏にそっと語りかけた。
杏は無言のまま首を縦に振る。
私達はベンチに腰をおろすと、ギュッと、手をつないだ。
キュンー
離したくないっ
なんとなくぼんやり、だけど確かな気持ちだった。