陽だまりの詩 6-3
「お、おはよう、奏」
「おはようございます」
朝から奏に会うことはめったにない。
朝はいつも一人で始まるから、おはよう、というのに慣れない自分がいた。
俺は奏に行き先を指示されながら車椅子を押して歩く。
「なあ、そのことって、美沙も知ってるのか?」
「はいっ」
なんだか声が弾んでいる奏。
悔しいぞ、美沙。
「ここを右で到着です」
俺は無言で右に曲がる。
「…リハビリテーション室」
そうか。
奏、歩く練習を始めたのか。
「奏、よく決心したな」
「…はい。でも、始めた一番の理由は単純なんですよ?」
「単純?」
「私も帰りたくなくなったんです」
「え?」
よく意味が分からない。
「私も春陽さん、美沙ちゃんと一緒にいたいから…」
えへへ、と照れ笑いを浮かべる奏。
ぐらりと体が揺れる。