特進クラスの期末考査 『淫らな実験をレポートせよ』act.7-1
想うだけで胸が痛い。
見つめるだけで胸が苦しい。
指先が震える。
好き、って奴は苦しくて痛い。
「ねえ、最近あの二人って一緒にいなくない?」
「別れちゃったとか?」
「結構長く付き合ってたじゃん?あの二人」
「一年?二年以上じゃなかった?」
「今年、高三よ。確か付き合いだしたのって一年くらいだよね」
「で、見かけなくなったのって三年になってからで」
「じゃあ、やっぱり二年近くは付き合ってたんだ」
「多分ね。飽きないなぁって思ってたし」
「すごいね、マジ羨ましい」
「デコボココンビなのにね。二人とも大人しいからとか?」
「ああいう風になりたいって思うの、多いよね。絶対。マジ理想系」
「でもなんで別れちゃったのかな、勿体ないじゃん」
「別れたかは確かじゃないけど、ホント勿体ない」
「あーあ、あたしも長く持ちたぁい」
「その前に彼氏だろ。あたしもだけど」
「その前に恋よ、恋。お互い恋しなきゃ始まんないってか」
「マジ恋したいぜぇ」
act.7
《恋人の条件》
七月の初旬頃、女の子達がそんな話をしていた。振り返ると笑って逃げた。¨あの二人¨、¨デコボココンビ¨、なんとなく思い当たる節々に眉間に皺が寄る。
「顔が怖いぞ。顔が」
不意に後ろから声をかけられ振り返ると、目の前には小柄な少年、瀬田和馬(セタ カズマ)が鼻で笑っていた。
「鷲尾、お前程解りやすい人間は他に見ないな」
馬鹿にしたように笑い、瀬田は見た目に似合わず大股で廊下を闊歩する。
鷲尾こと、鷲尾 啓介(ワシオ ケイスケ)。身長190センチを越す、別名『歩くガリバー』だなんて言われている。背丈は高くても心優しく大人しい大型犬みたいな印象だ。
そして今日もニコニコと瀬田の後ろに付いて歩く。160センチに満たない瀬田とはどっから見てもジャンルが違うが、二人の関係は掛け替えのない友達だ。
足りないものを補い合うような関係。そんな二人は高校に上がってから知り合ったのだが、今では隣にいるのは当たり前。離れがたいように見えて束縛し合わない関係はまるで年期の入った夫婦のようだ。
「言いたい奴には言わせておけばいい」
ぼそりと瀬田が呟く。まるで『独り言だ。気にするな』と背中で語っているかのように。
「………瀬田は何でもわかるんだな」
驚きを混ぜて言うが、瀬田は、当たり前だ、と言い放って歩き出す。啓介は苦笑を堪えながら、悪いな、と呟く。
言葉少ない者同士、言葉はたいして重要ではない。相手の気持ちをいかに汲み取るか、そこの信頼関係で成り立っているようである。
(瀬田だって色々抱えてるのにな…)
瀬田の秘密の恋人の存在は何となく知っていた。戸惑い、悩み、苦しみ、そして穏やかな幸せ……気付いてはいるが啓介は敢えて知らん顔をしている。自分もそうだが、自分の中だけで収めたいことを相手に気遣われたくない。だから瀬田も余計な事は言わないので……多少感が鋭過ぎる時もあるが……啓介は自分も余計な事は言いたくないのである。
(俺もいい加減未練がましい………か)
淡い恋心。啓介にとっての初恋。柔らかくて砂糖菓子の様に甘い恋。初めて好きになった女の子も負けず劣らず、柔らかくて、甘くて、小さくて、壊れそうで。
自分と真逆の女の子。木田 英理子(キダ エリコ)今はただの………クラスメート。