腐肉(その2)-2
「まだ、ピンク色だな…あまり経験がないのか」
男の言葉に僕は曖昧な返事を返す。男は深く葉巻を吸い、僕の晒された股間に煙を吐く。男の唾液を含んだような紫色の煙が吸いつくように僕の下半身にまとわりつく。
「オナニーもしないのか…」
どうしてこの男の言葉は厭らしく卑猥に聞こえるのだろうか… この男の吐く何でもない言葉さえ僕は生理的に嫌悪感さえ感じた。僕はうつむいたまま黙っていた。
「まあ、いい…別に答える必要はない」
それから傍に置いた黒い大きい鞄の中から、黒い革製の細い紐を取り出した。それを見たとき、僕は怯えるように後ずさりした。
「怖がることはない… 俺の趣味だと思ってくれ…」
男は冷酷に言い、立ち上がると僕の背後から慣れた手つきで華奢な僕の手首を後ろ手に捻り、その紐でゆっくりと手首だけを縛った。湿った革の紐が吸いつくように手首に食い込む感触に、僕は淫靡な被虐感を股間に感じていた。男のその大きな鞄の中にはあのときの鞭や縄もあるのだろうか…。
僕は垂れ袋の根元を縄で喰い締められ、搾りだされるように勃起させられた肉棒に鋭く振り下ろされる鞭を受け、血の気を失うように紫色に変色する僕の性器を想像した。
汚辱される肉の苦痛と快楽…そんな肉欲が彷彿とし、僕の股間は脈打つように疼き始めるのだった。
「もうお○んちんが硬くなり始めているな。マゾの素質は十分ありそうだ…」
男は少しだけ固くなりかけた僕の陰根に触れ、嗜虐に満ちた言葉を吐いた。
男は優越感を感じたように後ろ手に縛った僕をベットに仰向けに押し倒す。肩までかかる僕の艶やかな黒髪がシャンデリアの薄灯りの中、ベッドの上で妖しく乱れた。僕は男を誘う女のように生まれたままのしなやかなで潤みを帯びた肢体を悩ましく悶えさせた。男は薄笑いを浮かべ淫魔に取りつかれたような視線を僕の白く艶やかな肌に這わせた。男は獰猛な淫獣のように獲物を目で犯す悦びに浸っているようだった。
そしてゆっくりと男は自らの縞模様のトランクスを床に脱ぎ捨てた。男の股間からは白毛の混じったふっさりとした濃密な繁みとともに、ずしりとした黒い肉塊が現れる。それはあのとき僕を犯し続けたそのものだった…。
僕はその太く腐爛したような異様な肉片に思わず目をやったとき、悪寒に似た戦慄が記憶の中から鮮やかによみがえり体が震えた。それは男根というより、煤黒くぬるぬると鉛色の光沢を放つ畸形の獣の臓物そのものだったのだ。
「どうだ、俺の持ち物は…驚いたか」
男はへへっ…と狡猾そうな笑みを浮かべるとその爛れたような肉塊に手を添え、ベットに横たわる僕の鼻先にぶらりと突きつけた。僕は蛇の鎌首を押しつけられたかのように怯え顔を背けた。
太い鋼のような亀頭の色素は斑にどす黒く、静脈が浮き上がった包皮は老婆の幾重にも皺の刻まれた枯れた淫唇のように萎び肉塊を覆っていた。そしてその噎せるような肉片のすえた臭いに黄土色の胃液さえ嘔吐しそうだった。
「そんなに嫌がるなよ…。どの女も俺のこの一物を初めて見ると驚くもんだ。この前なんて、嫌がる看護婦相手に突き上げてやったら、髪を振り乱し腰を振り泣きながら悦んでいたぜ。それに俺の大学病院の女医なんて、口で咥えさせてって言うもんだから、一時間たっぷりしゃぶらせて、女の喉の奥に精液を発射してやったら喉を詰まらせて気絶してしまったもんだ…」
男は自慢するように言いながら、ゆっくり僕の体の上に覆いかぶさり、僕の少しだけ濡れた唇を求めてきた。男のぶ厚い唇が僕の小さな唇に重なり、舌の先端が僕の唇をなぞる。そして口の中に挿入されたその舌は、ねっとりとした生き物のように激しく僕の舌を求め蠢いた。男の独特な臭いを持った唾液が僕の口の中で溢れ、唇の間から糸を引くように頬を滴る。
やがて男は僕の白い首筋から鎖骨へ、肌理の細かい甘い柔肌に唇を這わせ愛撫を始める。さらに片方の手を股間に滑り込ませ太股を撫でさするのだった。男の体臭と吐息の混ざった臭いが僕の鼻腔の奥を息苦しく刺激した。
しだいに体の芯が火照り、後ろ手に縛られた上体を男の体の下で悶えながらも股間の肉根は少しずつ固くなり屹立を始めていた。魚の鱗のようなぬるぬるした男の掌は生温かく、その掌が内股を厭らしく抓るように撫でると、背中に悪寒さえ感じさせた。その掌は限りなく秘めやかで陰湿だった。肌に触れられれば触れられるほど、僕の体全体が熱を帯び淫敏になっていくのだった。