「とある日の霊能者その4」-1
「見えるって……」
それって、まさか……。
「俺にも、水上に見えるモノが見えるってことだ。一般に、霊と呼ばれるモノがな」
言葉を失った。
だって、信じられない。ボクと同じ体質の人がいたなんて。だから「見えるのか」ってしつこく訊いてきたのかな。
「俺はさ、ある日突然、見えるようになったんだ。見たくなかったんだが、見えちまう。誰にも相談出来ないからさ、結構苦しんだよ」
秋の空を見上げ、仲里君は一言ずつ、噛み締めるように言った。
見えるからって、必ずしもいいわけじゃない。それは分かってるつもりだったけど、実際に苦しんでる人を目の当たりにして尚、同じことは思えなかった。
「水上はどうだった?」
「え?」
突然の問い。その意味が分からなくて答えに窮していると、
「水上は、霊が見えるって分かった時、どう思った?」
仲里君が訊き直してくれた。ボクは考えながら言った。
「最初は……嫌だった。誰にも話せないし、気味悪がられるから……。でもね、彼らとも真っ直ぐ付き合ってみると、意外と悪くないって思えたの。むしろ、見える人間で良かったって思えるぐらい。だって、誰にも話せないようなことだって、霊なら話せるんだよ?かなり真剣に聞いてくれるし、いいアドバイスをくれたりするし。あ、それから……」
そこで気付いた。さっきからボク、段々と饒舌になってきてる。
ちょっと引かれたかな、そう思って仲里君を見ると、
「そうか。水上はそう思うのか。確かに、考え方によっちゃあ、いいって思えるかも知れないな」
微笑みながらそう言ってくれた。ちょっぴり嬉しくなった。
「そうでしょ?」
ちょっと調子に乗って言ってみた。すると、仲里君はボクに背を向けて、
「そうだな。……ああ、長々と話してすまんかった。んじゃ、また明日な」
片手だけ挙げて、ひらひらとボクに向かって振った。
「ま、また明日!」
ボクはそう言いながら手をぶんぶんと振って、そこで仲里君と別れた。
……彼も見えたのね……
さっきまで空気を読んで黙っていたオバサンの霊が、ボクに寄りながら言った。だけどボクはなにも返せない。
……どうかしたの、涼香ちゃん?……
オバサンはボクを覗き込むように見てくる。それでも返せない。
……りょ、涼香ちゃん。あなた……
「えへへ〜……仲里君と喋っちゃった〜……。凄い話しちゃった〜……。霊の話でも、凄く嬉しいな〜……」
……完全にあちらの世界に飛んでいる……
オバサンは呆れたような顔をしてボクの心配をしてくれているけど、
……さあさあ、帰りなさい。早く帰らないと、ご両親が心配するでしょ……
「うん〜……えへへ〜……」
ボクは相変わらずののぼせた頭で帰宅した。