「とある日の霊能者その4」-2
翌日。
「よう、水上」
「お、おはよう、仲里君」
ボクは登校途中、仲里君とばったり出逢ってしまった。朝の太陽がさんさんとしている早朝、学校前の曲がり角で。
昨日のことがあったせいか、仲里君は気軽に話し掛けてくれる。ボクもそれは嬉しい。嬉しい、けど……
「あ、あああ、あのね!」
「おう」
「も、ももももうすぐ、文化祭があるのね!?」
「ああ。そう言えば昨日、誰かが言っていたような」
「そ、そうなんだ!うちのクラスはなにやるか知ってる!?」
「いや。そこまでは聞いてないな」
「お、お化け屋敷やるんだよ!」
「へぇ。楽しそうだな」
「じゅ、準備は大体終わってるけど、仲里君にも仕事が回ってくると思うから、その時は頑張ってね!」
「上手くできっかな……」
「だ、だだ、大丈夫だよ!なにも一人でやるわけじゃないんだから!」
「だよな。お互いに助け合うべきだよな」
さっきから狼狽えまくりなボクがいるわけで。そんなボクを見ても平然としている仲里君は気さくな人なのかな、とか思ったりしているわけで。
鼓動は高鳴ったなまま。ボクの惚れようは半端じゃない。でもこの気持ちを伝えられない。一気に言ってしまえばいいのに。好きだって言ってしまえばいいのに。意気地無しなボクが嫌になる。
そこへ、
……おはよう、涼香さん……
と、声なき声が。
「……おはよう、タツカ」
朝の嬉しいこの空気をぶち壊してくれたタツカに、不機嫌な顔で挨拶を返した。タツカはそれに気付かず、変わらない笑顔だ。
そのボクの肩後ろから顔をタツカに見せ、仲里君が声を低くして言った。
「へえ。君はタツカっていうのか?」
もちろん、それは周りに聞こえないように。一般人には見えないんだから、そうするのは当たり前なんだけど。
……っ!!……
タツカはびくっと身体を震わせた。多分、初対面で急に声をかけられて驚いたんだろう。まったく、内気少女め。……他人のことを言えないボクだけど。
……あの。涼香さん。この人は、誰ですか?……
ボクに声なき声で訊いてくるタツカ。しょうがないから教えてあげることにする。
「仲里君っていって、転校生。昨日転校してきたばっかなんだよ」
……そう、ですか……
「よろしく!」
元気一杯に仲里君はタツカに挨拶をした。まあ、それはいいんだよ。だけどさ、そんなにボクの肩越しに言わないでよ。息がかかるじゃん。興奮するじゃん。
「ちょっ……仲里君……近い……」
「あ、悪い」
彼に気にした様子はない。だから余計に悪い。
「…………」
荒い息をなんとか整え、ボクは一方的にタツカに話しかける仲里君を見ていた。タツカはなにも喋らず、ただこっくりこっくり頷くだけだった。
その時、ボクらの耳に入る、「キーンコーンカーンコーン……」という音。予鈴だ。
「仲里君。もう行かなきゃ」
そうやって声をかける。仲里君はすぐに動いた。
「そんじゃ、タツカちゃん」
……は、はい……
タツカは仲里君を見ようともせず、ただ俯いていた。やっぱり内気だから、なのだろうか。
「行こうぜ」
「う、うん」
やっぱり内気なボク。告白は、当分出来そうにないな……。
見つけた。
ついに見つけた。
私の標的だ。
殺してやる。
なによりも誰よりも苦しめて、殺してやる。