「命の尊厳」後編-4
「で。何を調べるんです?」
昌信は仕方ないという表情を桜井に向けた。
「クルマを拝見出来ますか?もちろん、確認ですから」
桜井は笑みを湛えて昌信に言った。
「仕方ないですな……」
そう言うと、昌信は桜井達を従えてガレージに向かった。
7台のクルマが横に並べられるスペース。それだけで普通の家一軒分の幅だ。そのシャッターがすべて開くと、4台のクルマが桜井の目に飛び込んで来た。
メルセデスのSELにトヨタのセルシオ。軽トラック。そして国産のスポーツカーが並んでいる。
その1台々を睨め付けるように見つめる2人。
「このクルマもあなたが?」
桜井の足が止まった。
それは前出のスポーツカーだった。コバルトブルーの車体とゴールドのホイールが特徴的な、ラリーカーを模したボディのクルマだ。
「…ああ、それは息子のですよ」
「息子さんですか」
桜井の目が輝く。
「…勅使河原さん。申し訳ないんですが、その息子さんに会わせて頂けますか?」
「刑事さん…」
苦い表情を見せる昌信に対して、桜井は弁解めいた言葉と作り笑顔を混じえて、
「…勅使河原さん。我々も証言に基づいて動かないと報告のしようが無いのですよ」
そう言って両手を合わせる桜井。昌信は困惑の表情でしばらく考えた後、諦めたようにため息を吐いた。
「…仕方ないですな。ちょっと待ってて下さい」
そう伝えると邸宅へと戻って行った。桜井は昌信が見えなくなるのを見届けると、
「高橋。そこの染みの幅を測ってみろ」
そう彼に伝える。
それはガレージの床に着いたオイルの染みだった。
かなり多量に漏れたようで、タイヤ跡までがくっきりと残っていた。
高橋は素早く親指と人差し指の幅でタイヤ間の幅を測った。
「桜井さん。例のタイヤ幅と、ほぼ一致します」
興奮した様子で語る高橋に合わせるように、桜井は大きく頷いた。
(やはりな…だが……)
そこに昌信が戻って来た。その後に息子を従えて。
「息子の信也です」
「〇〇県警、刑事課の桜井です。すいませんね。朝のお忙しい時刻に」
丁寧な挨拶を見せる桜井に対して、信也は視線も交さず無言で頭を下げるだけだった。
「単刀直入にお伺いしますが、1月24日の夜半、何処に居られましたか?」
「刑事さん!」
昌信が声を荒げた。