《glory for the light》-45
―あの日から、百合は完全に大学にこなくなった。アパートを訪ねようと思った矢先、僕の元に、届け物が来た。小さな箱に、手紙が添えられていた。
『拝啓。突然、手紙なんて送ってごめんなさい。あなたは、きっと困惑してると思います。依然として私は大学に訪れないし、やっとの音沙汰がこんな形で、本当にごめんね。
あの日、あの街の海で語らったこと、私なりによく考えてみました。だけど、あなたが望んだ答えを、私が見付けることはできませんでした。いいえ、気が付かなかった振りをしているだけかもしれない。本当はね、分かってました。私がその答えにたどり着いたら、きっと私たちは幸せになれるんだって。
でも、ダメでした。あなたは言ってくれましたね。私だけのあなたでありたい。たとえ、あなただけの私でなくても。
その言葉、とても嬉しかったよ。
でも、私は、それじゃいけないと思います。私自身が、いけないんだと思います。
あなたは、何も悪くないんです。
罪、なんだと思います。あなたを、失った彼と重ねて、傷付けてばかりいた、私の罪。
でもね、私は決して、その罪を後悔してないの。だって、罪を重ねることで、あなたとずっと一緒にいられたから。
私は、あなたに逢えて本当によかった。その思いは、今でも変わっていません。
だけど、束の間の幸せのために罪を犯した私は、還らなければいけないんだと思います。
私は言いましたね。失った彼を、夢から覚ます方法を思い付いたって。
私はまた、それについて謝らなければいけません。
星なった彼は、私が何処にもいないから、夢から覚めずに、天国にも行けない。
じゃあ、私が彼の隣に行けば、彼は目を覚まして、天国に行けるのかな。そんな風にも思ってしまいました。私の名前は、死者を悼む百合の花と同じだから、もしかしたら、それが正しい答えなのかも。そんな風に、思っています。
でも、本当は違うんです。私は、もう傷付きたくないだけなんです。楽な道を選ぼうとしているだけなんです。あなたと二人で歩む道を、自分の道と思おうとしたこともありました。それでも、楽な道に足を踏み入れようとする私を、許してください。
あなたが言う通り、過去を見据えた私は、過去から目が離せなくなってしまいました。ごめんなさい。
色々と書きましたが、そろそろ筆を置かせてもらいますね。
でも、最期に一つだけ。
たしかに、私はあなたに彼の面影を重ねたこともありました。でも、それが全てと思わないで。
私は、あなた自身を見つめることができたからこそ、今、この道を選んだのです。
星になって、彼を天国に送ったら、私は星のままであり続けたい。そして、何万光年もかけて、あなたを見守りたいと思います。
あなたが大人になって、いつか素敵な恋をして、誰かと結婚して、子供を作って、絵に描いたような幸せな家庭を作るの。
私は、空の上から、あなたの幸せそうな顔を見て、私も幸せな気持ちになるけど、でもちょっと、やきもちなんかやいたりするんです。ね、いいでしょ?』
手紙の最後を読んで、僕は涙を溢す。
『私が愛した最期の人へ―百合より』