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《glory for the light》
【少年/少女 恋愛小説】

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《glory for the light》-15

(…私ね。三年前に、大切な人を失った)
変わらない笑み。何かに耐えるような笑み。何かを忘れるための笑み。たった一つの表情に、僕は気が剥離するような感傷を見付けた。僕は何も言わずに、次の言葉を待った。
(…恋人、彼氏。初めてそう呼べる人)
毅然とした顔に浮かぶのは、笑顔という名の、哀しいベール。僕は百合の笑顔が、悲哀を覆う壁であることを改めて知った。
(笑顔って不思議だよね)
心の内を見透かしたように、百合は述べた。
(…どんなに哀しい想い出でも、笑いながら想い出せば、楽しい想い出だけが蘇るんだよ?)
まだ十代の若さで、そんな事実を見い出す百合が悲しかった。
(私、そう気付いてから、笑う練習いっぱいしたな…)
人の心などお構いなしに、トンビが悠々と青空へと羽ばたいていた。夏の空は普遍的。その分、身勝手な時もある。
(最初は余り、練習の効果はでなかったけどね)
僕等の傍らを、小学生と思しき子供たちが走り抜けて行った。百合は、太陽を見るより眩しげにその背を見送った。
(そのうち慣れちゃった…。そして気付いたの。人は、その気になればどんな時でも笑える生き物なんだって)
一度言葉を区切り、百合は悲しみに瞳を揺らがせた。次いで出た言葉は、僕を悲しくさせた…。
(たとえ誰かが死んだ時でも…)
その声には、微かな自己嫌悪の色が含まれていた。優しすぎる故の、罪悪感なのかもしれない。
百合の瞳を覗く。現実から逃れ、彼女にしか分からない空間を視線が泳いでいた。繊細で、痛々しく、壊れそうな瞳だった。
(僕が死んで、時が流れたら、君には笑っていて欲しい。僕を想い出して泣いて欲しくはない。きっと、その人もそう思っていたんじゃないかな)
身勝手な言葉だった。僕はその男のことは何も知らないし、二人の間にどんな時が流れていたのかも知らない。けれど、少なくとも、僕の叔父はそういう人だった。言葉として聞いたことはなくても、そんな考え方をする人だった。大切な人を遺して死を前にした、あるいは死を後にした者の考えることは、もしかしたら皆同じなのかも。…幸せでいて欲しいと…。
(…うん。そうだといいね)
百合は小さく呟いた。足下に踊る風のように儚い声だった。
(きっとそうさ)
そう信じよう。でなければ、余りにも君が…。
光を連れた夏風に紛れて、うん…という細やかな声が届く。その想いが、鮮やかな軌跡を残して吹き抜ける微風に浚われないように、彼女は精一杯の笑顔を作った。僕も精一杯、それに答えた。やけに涼しい夏の一時のことだった…。


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