陽だまりの詩 3-6
病室の前でどれくらい待っただろうか。
しばらく悶々としていると、病室の扉が開いた。
「…終わったか?」
「うん、いろいろ話せて楽しかった」
笑顔の美沙。
つい習慣で不信感を覚える。
「奏ちゃん、美沙が失礼なこと言わなかったか?」
入ったときと変わらない体勢で座る奏ちゃんに言う。
「いえ、すごく楽しかったです」
だが、奏ちゃんは笑顔だった。
「またね、奏」
「うん、またね、美沙ちゃん」
どうやら俺の思惑通りになったようだ。
一件落着、よかったよかった。
「じゃあ美沙、奏ちゃんと少し話したいから先にケーキ屋行ってろ」
「…はーい」
珍しく聞き分けのいい美沙は、笑顔のまま歩いていった。
再び病室に入り、美沙が出したままにしていた折りたたみ椅子に座る。
「どうだった?」
「すごく楽しかったです」
「ならよかった」
ケーキを買わされるだけの成果はあったらしい。
「それにしても、本当に妹さん、美沙ちゃんと信頼し合ってるんですね」
奏ちゃんは笑顔でそう言うが、俺はいきなりで話が見えない。
「どういうこと?」
そう尋ねると、少し顔を赤らめて奏ちゃんが言った。
「美沙ちゃんが言ったんです。“兄貴が奏の恋愛対象になるかはわからないけど、あんなのでも思いやりがあって本当にいいやつだから、仲良くしてやってね”と」
アイツが何を考えているのかはわからないが、本当にうれしかった。
「……っ」
喉が鳴る。
やばい、ちょっと感動して泣きそうになってしまった。
「天道さん、美沙ちゃんは本当にいい妹さんですね」
「ああ」
胸を張って即答した。
本当にそうだから。
帰り際、奏ちゃんは言った。
「天道さん」
「ん」
「さっきの話なんですが」
「さっきの?」
「美沙ちゃんの言ったことです」
「…ああ」
奏ちゃんは下を向いたままだ。
だが、耳は真っ赤になっているのがわかる。
「天道さんは私のこと…恋愛対象になりますか?」
ドクン
また心臓が高鳴る。
俺たちは十も離れてるんだよ?
普通ならそう言う。
俺だってそうさ。
でも俺は…
もう初めて会ったときから…
君の虜なんだ。
「なるよ」
俺は出来るだけ優しい声で言うと、彼女はハッと俺に顔を向けた。
やはり顔も真っ赤だった。
「……じゃあまたな」
「……は、はい」
俺が手を上げると、奏ちゃんは笑って手を振った。
その瞳が濡れていたような気がした。