GAME IS MEMORY-5
突如、友人たちの顔が青ざめた。
視線は僕の後ろに向けられていた。
僕がゆっくりと振り替えると、いつの間に来たのだろう。
放送室から利恵が戻って来ていたんだ。
まずい。聞かれていた。そんな空気が満ちていた。
僕と利恵は目が合った。何も言わずに、僕はポーカーに戻った。
頭の中には、いつまでも、傷付いたような利恵の瞳が揺れていた。
忘れ物を取りに来ただけらしく、利恵は自分の机に向かった後、また教室から出ていった。
友人たちは僕と利恵の仲を知らなかったから、僕のそっけない態度を訝しがることはなかった。その代わり、笑い混じりで口々に騒いでいた。
僕はじっとトランプを見つめていた。ポーカーなら、ラッキーカードのはずのジョーカーが手札にあった。
僕にはそのジョーカーが、痛烈な皮肉で何かの終りを暗示しているように思えてならなかった…。
当然の結果だけど、利恵はその日から、僕の家にはこなくなった。
あの時、彼女は僕も一緒に自分を馬鹿にしていたと勘違いしていたのかもしれない。
たとえ僕が何も言わなかったことを知っていても、彼等の言葉に反論しなかった冷たい僕に、落胆していたのは確かだろう。
僕と利恵はまた、友だち未満の関係に戻った。廊下ですれ違っても、視線を合わせることもない。
表面的には、全てが元に戻っただけだった。
一ヶ月もすれば、僕はそのことも忘れていた。(それが、僕の初恋の終りだとも気付かずにね)
やがて、僕等は中学校を卒業して、それぞれ別の高校へと進学した。結局、利恵と仲直りする機会もなく、その必要性すら感じていなかった。
色々あって、高校では恋人もできたけど、すぐに別れた。それも理由は些細なことだった気がする。
三年になって、大学に合格して、高校を卒業して、僕は引っ越しのための荷造りをしていたんだ。
押し入れをあさっていると、埃を被った古臭いゲーム機が出てきた。
懐かしく思いながら、一本一本のカセットを見ていると、『MYTOWN』を見付けたんだ。
そこで利恵のことを思い出したのが、18歳の、今の僕ってわけ。
僕は苦い思い出を噛み絞めながら、ちょっとだけ大人になった体で、ゲーム機をTVに繋げた。
『MYTOWN』のカセットをゲーム機に差込み、始動させる。
懐かしいメロディが流れた。
奇跡的にもデータは消えていなかった。
現代世界から、魔法の世界に迷い込んだ少年。彼を手助けする、魔法使いの少女。
あの頃の僕と利恵が、そこにはいた。
人工7万8千人の、僕等の街…。
僕は、一人でゲームを進めた。沢山の、失われた思い出が蘇る。
ポテトチップスとコーラを傍らに置いて、時折、笑顔なんか浮かべてゲームに没頭していたあの日。
伝染病が街に蔓延して、たった一回の魔法を使ったあの日。
あの頃の僕は、記憶というものが、こんなにも儚いものだなんて考えもしなかった。
僕は、ゲームをクリアするために、ひたすらコントローラーを操作する。
当時は気付かなかったコツを掴み、人工は8万になり、9万になり、治安も安定した、豊かな街並が完成していった。