桜が咲く頃〜矮助〜-3
口の中に広がる甘さ…
こんぺいとうだ…!
そう気付いた時、涙がこぼれた。
『ごっごめん!
ああでもしないと食べてくれないと思って…!』
アイツはあたふたしだした。
違う、違うんだ…!
ちゃんと説明したかったが、口から出るのは鳴咽ばかりで…
アイツは何度もごめん、と繰り返し、優しく頭を撫で続けてくれた…
久しぶりに泣いた。
泣きすぎて、瞼は腫れ、頭が痛い。
そしてまた少し熱が上がってきたかもしれない。
しかしアイツの腕の中は、暖かく、とても心地いい…
そんな鈍い重さの中でまどろんでいると、アイツが話し出した。
『鈴、聞いてくれるか?
俺自身のこと。
鈴にはちゃんと知って欲しいんだ…
この屋敷の名は山村家。
この山村家は、この国の中心人物、福永家に代々仕える名家で、現在の主は山村隆彦と言い、俺の親父だ。
ある日親父は福永様から、大野が怪しい動きをしているから探ってくれと、頼まれたんだ。
そこで、大野に顔を知られていない俺が、護衛として潜り込むことにした。
俺は大野が反物屋の笹屋から賄賂を手にしているのを突き止め、二人を捕まえる機会を待った。
そしてあの日、鈴が倒れた次の日、笹屋がやって来ると知り、親父に伝えた。
そして親父から奉行所に連絡が行き、奉行所の連中が二人を、念のため屋敷の人達全員を捕えた。
あのまま大野の屋敷にいたら鈴まで捕まってしまうと思って、奉行所の連中に見つかる前に鈴を連れ出して、家に来たんだ。
奉行所には親父から、俺達二人は身元もはっきりしてるから捕まる必要はないって言ってある。
だから、連中が鈴を捕まえにくることはないよ』
しばしの沈黙…
『お前…』
声がかすれて、上手く喋れない。
俺は水を一口飲んで続ける。
『お前前に、さっき街で聞いてきたんだが、と前置きをして、大野が悪どいことをしているらしい、と話したが、あの前置きは嘘か?』
『いや、ホントに街に出掛けたらそんな話をしている人達がいたから、街の人はどこまで知ってるんだろうって思って聞耳を立てていたんだ。
それから、鈴はどう思うのかと思って聞いてみた』
もしそこで、そんなことをしている奴の護衛はできない、とあの屋敷を出て行っていたら、今ここにはいないだろうな…
そう思っていると、アイツの声が聞こえた。
『鈴が出て行かなくて良かった…』
え?今、何…
聞き返そうと思ったが、俺はまた夢の世界に落ちた。
それからは、少しずつご飯も食べられるようになり、この屋敷に来て7日目、俺は完全回復した。
ずっと寝ていたせいで、筋力は落ち、体が鈍ってしまった。
俺が部屋で体を動かしているとアイツが入ってきた。