『one's second love〜桜便り〜』-1
『なあ、本当に行っちゃうのかよぉ』
『うん』
『なんとかして岬だけでも残れないのかよ』
『しょうがないよ。親のつごうだもん』
『………』
『寂しい?』
『………』
『寂しいんだ』
『岬は……寂しくないのか?』
『どうかな。こういうの慣れっこだし、分かんない』
『でも、せっかく仲良くなれたのに…』
『そんなに泣かないでよ。私、知ってるよ。そういうの女々しいって言うんだって』
『ゴメン…俺。岬の家の事はわかってるんだけど』
『大丈夫よ。もう会えないなんて訳じゃないんだしさ。あなたか私に何かない限りはね』
『不吉なこと言うなよぉ』
『アハハ……ごめん。私も、不安なのかも。この街に来て、すごく楽しかったから。ここが最高で、だからもうこの先にはなんにもないんだって思って……』
『だったら、だったらもう一度ここに戻ってくればいいじゃん。この街が、岬の帰ってくる場所になればいいんだ』
『私の、場所…?』
『そうだ』
『いいのかな。私、また戻ってきても』
『いいんだ』
『そっか、そうだね…うん。私も、そうなったら嬉しいな…』
4月25日。
あの日、桜散る木の下で。二人で今日のことを忘れないと……かたく誓った。
?
大学は当初予定していたのより少し遠いところを受けることにした。
そのぶん、レベルは上がったけど…がむしゃらに勉強してきたおかげで見事一発で志望校に合格できた。
発表通知が届いた日、俺はもう荷造りをはじめていて、周りの制止を押さえ家を出ることになんの躊躇いもなかった。小さなリュックに詰め込んだ荷物。
余分な物は全て部屋に置いていった。
卒業。それと同時にやってくる別れを俺は平然と受け止めることができて、気持ちはすでに前に向かっていたのかもしれない。後ろ髪をひかれることなくスムーズに事を進めた。
証書を受け取って、仰げば尊しを歌って、クラス写真を撮って……泣いてたヤツもいたな。晴々とした顔で笑いあってる連中もいた。
大抵どっちかだ。でも一人だけ、俺と同じようにぼうっとしたツラをレンズに向けてるヤツもいた。
ただ、それだけだけど…。