『one's second love〜桜便り〜』-8
『4月1日 土曜日 晴れ
クラスの連中から先日オープンしたばかりの遊園地に遊びに誘われた。
正直、春休みを暇で持て余していた俺にはありがたい話だ。やることもないし、のこのことついていくことにした。
待ち合わせ場所の駅には、いつもと同じ顔触れ。
その中に岬が入っているのは、ここ一ヶ月での俺に接する回数から見ても不思議じゃない。
もはや皆の常識の中では、岬の存在は当たり前になっている。ようは集団に溶けこむのが実に早かった。
だから今日は、そんな岬の親交会を兼ねた集まりという意味合いが強い。現地で発表されたそのイベントに、俺は全く賛同できなかった。一番近しい俺に、負担がかかるに決まってるからだ。文句を言ってやったが、まるで相手にされなかった。
遊園地に着いても岬のお守りと案内役を一手に引き受けた俺が、楽しめるはずもない……。
だってコイツ、弱いんだもん。遊園地初めてとか言ってはしゃいで、いざアトラクションに乗ったら………。
吐きやがった。
それも盛大に。
その後、みんなに悪いからって先に行かせて岬はダウンした。
俺を残して。
「要は私の案内役でしょ。アンタが行ったら、誰が私の相手するのよ」
案内人はゲロの処理までしなきゃいけんのか。
せっかくの休日もまたコイツに潰されたかと思うと、無性に腹が立ってきた。
休憩を挟んで、再び立ち上がった岬が俺に手を差し伸べた。
「行こう」
と岬は言う。
何だ。意外とチャレンジャーなのか?
どこに行くんだ。俺がそう聞くと、
「メリーゴー……」
言い切る前に断固拒否した。
何でこの年にもなって、そんなお子様仕様の乗り物に付き合わにゃならん。
……でもまぁ、観覧車くらいなら乗ってやってもいいか。それなら、コイツも大丈夫だし。
そう言ってやると岬はパァッと明るくなって、子供みたいに喜んだ。
…不覚にも、可愛いと思ってしまった。
一度思いはじめてしまうと、後は止められようがなかった。認めたくないけれど、やっぱコイツ笑ってる顔が一番良いなって。
――岬に振り回された一日が、そう悪くない、一日になっていく。
俺の中で、何かが変わりはじめた』
?
最初は、どこにでもある、ほんの小さな恋。
誰に見咎められることもない二人の、楽しい時間。
幸せだった。
この先に何の曇りもないって信じてた。
全てが上手く回っていきそうな、そんな予感…。
「確かに、私達は付き合ってた。私達は想いあってた。苦しいことだってたくさんあったけど、辛いことは一つもなかったわ。
だって、何が一番悲しいかなんて互いにもう分かりきってたから」
「じゃあなんで、今そんな悲しいことになってるの?」
「私に子供ができたのよ」