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『one's second love』
【初恋 恋愛小説】

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『one's second love〜桜便り〜』-10

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朝、目が覚めると私はベッドの上でうつ伏せになっていた。
顔を上げて、枕元を見ると要の日記が開いたままだ。どうやら、そのまま寝てしまったらしい。
夜通し日記を見ていたせいか、起きるのがかなり億劫になっている。
でも、そのおかげで要の補完が随分と進んだ。
私が彼の部屋から持ってきた日記は、全部で十年分。
その膨大な量を読み尽すには、もう、時間がない。
このノートに隠された私の真実を、紐解く必要があった。
時刻は七時半。
私は学校に行く準備をして、鞄の中に日記を押し込んだ。

「行ってきます」
誰に言うでもなく扉を開ける。
紺色の薄いワンピースが木枯らしに吹かれてふわりと舞った。
頬にかかる風が肌寒い。
……もうすぐ、冬が来るんだ。



「……なんかあったの?」
午前中の講義が終わり、ずっと隣で寝ていたナナが顔を上げてそう言った。
「え?何が」
「とぼけても駄目よ。授業なんてうわのそらでちっとも聞いてなかったでしょ」
瞼を擦りながらナナが筆記用具を片付けている。
「ノートが真っ白な人に言われても説得力ないんですけど」
「ご飯、食べに行こっか。悩みがあるんだったら聞いてあげるよ」
珍しくナナの方から誘って来たので、私は思わず眉根を寄せて彼女を見た。
「あれ?なんか私の事疑ってない。大丈夫よ、奢らせたりなんかしないから」
「本当でしょうね」
「もちろん。どんな悩みでも私は聞いてあげる。この真っ白なノートを埋める作業を、ほんの少し手伝ってくれれば……」
「やっぱり裏があるんじゃない、あんた」
私はあきれるように溜め息を吐いた。
「堅いこと言わない!私の進学は、岬の成績に懸かってんだからね」
ナナは立ち上がって半ば強引に私の手をとった。
こんな最低な奢られ方は、私も困るということに気付いてほしい。


『4月17日 雨

岬が、遠くに行ってしまう。
どれくらい遠くなのかと聞かれても、答えられないくらい遠くへ。
つまり、もう会えなくなるってことだ。

そんなことない、って慰めてくれた人がいる。
二度と会えなくなる訳じゃない、って慰めてくれた奴もいる。

だけど、まだ子供の俺にとって「遠くに」って言葉はあまりに大きすぎた。
次に会えるのは何時だなんて保証はどこにもなかった。
ずっと側にいると思っていたのに……。
いなくなってしまうと分かった瞬間に、それがどれだけ大切なものだったか気付いたんだ。

俺は、俺は岬が好きだ。

だから……何処にも行かないでくれ』



「………で、これがその日記帳?」
「うん」
ふ〜んと頷いてナナはページをめくっていく。
私はそれを、じっと待っていた。
「これさぁ…」
すっと動かしていた手を休めナナが口を開く。
「アンタのことばっかりねぇ」
「それが?」
「愛されてたんじゃないの。その彼氏に」
ナナはそう言ってニヤリと笑った。
「……そういう感想しか出てこないのね」
相談する相手を間違えたみたいだった。
手にしていた紙コップを机の上に置くと、私は目を伏せて大きく息を吐いた。


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