アパートメント-3
「まだ慎、帰ってこないの?」
風呂から上がり、タオルで髪をこすりながら斗織に話しかける。
「今日は仕事で少し遅くなるんですって。」
「じゃあ、今日のアレは無しなんだね。」
土曜日恒例のアレ。
慎の不在でなくなればいいんだが。
「うふふ。もう準備してるから安心して。今日は寝かさないわよ。」
顔を赤らめてうっとりしながら話す斗織が鬱陶しい。
そんなにしたいのか?
なにも三人ですることないのにって思うけど、ここに住むときのさいしょの約束事はみっつあって、その中のひとつがアレだから仕方ない。
「………このハンバーグうまいね。」
「おいしい、でしょう?」
「……大変おいしゅうございます。」
手に持っていた箸を止めて、じいっとみつめられる。
トオルは言葉使いにうるさいのだ。
女性は女性らしく、といって注意されるんだけど何度言われてもしっくりこなくて、結局かわらずじまいだったりする。
しばらくして慎が帰ってきた。
短く切りそろえた髪もネクタイも朝と同じようにきちんと整っているのがさすがだと思う。
斗織よりも身長が高く体格もよくて、肩幅や胸ががっちりしてる。
競泳の選手だったんだとか。
慎は斗織の幼なじみで、二人が実家を離れた学生の時から一緒に住んでいるらしい。
「ほい、おみやげ」
語尾にハートマークがつきそうなくらい楽しげに手提げを差し出す。
中をのぞくと、某高級ホテルの名前が印刷されたケーキ箱が入っていた。
慎は週に一度は必ず大量のみやげを買ってくる。
今月にはいってから、ゼリーにプリン、和菓子、チョコレート。
すべての女は甘党だと思い込んでいるに違いない。
「ありがたいけど……こんなに食えないよ」
箱を開けばケーキやらシュークリームやら店で売っている全種類を買ってきたかのようにぎっしりつまっている。
「女の子なんだからそんな言い方しちゃだめよ」
すかさず斗織の指摘がはいる。
「はいはい、ごめんなさい。でもこんなに……」
「もったいなくないから、好きなものだけ食べればいい。」
もらうたびに同じ会話を繰り返すせいか、私の言葉を先読みする。