陽だまりの詩 prologue-3
「本当にここでいいのか?」
「はい、私そこの病院に入院していますので」
「……」
見上げると、そこには見慣れた白い建物があった。
美沙の病院か。偶然だな。
「…そうか、じゃあな」
「…」
彼女はまたも何か呟いている。
「ん…まだ何かあるのか?」
彼女はまっすぐに俺を見て叫んだ。
「あ…あのっ!私…奏です!響奏です」
響…奏(ひびき…かなで)
「…綺麗な名だ」
「え?」
「…」
「あの…あなたは…?」
「……天路春陽」
天道…春陽(あまみち…はるひ)
それが俺の名前。
「天道さん…今日は本当にありがとうございました」
「そう言ってばっかだと疲れるぞ」
「……」
彼女はしゅんとなる。
本当にいろんな表情を見せるな、この子は。
「……じゃあな」
「はい、また」
数歩歩いて気が付いた。
「…また?」
振り返ると、彼女は既に病院のほうへ車椅子を漕いでいた。
「……」
その後ろ姿が見えなくなるまで、俺は彼女を目で追っていた。
響…奏。
俺はまさかこの時、やがて彼女に再会し、恋に落ちるなんて思いもしなかった。