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陽だまりの詩
【純愛 恋愛小説】

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陽だまりの詩 prologue-2

***


俺は車椅子を押しながら河原を歩いていた。
もちろん車椅子には彼女が座っている。




『は、花見がしたい?』
『…はい』
なに言ってるんだ、この女の子は。
『んなもん、その辺でできるだろ』
道路には桜の木が何本も並んでおり、ちょうど今が見頃だ。
『いえ…その…桜じゃなくて…』
彼女は困った顔をしていた。
しょうがない。最後まで付き合ってやるか。
俺は小さく息を吐いて、問いかけた。
『桜じゃなくて?』




「見えたぞ」
河川敷には、美しくも鮮やかな黄色の花畑が。
「…綺麗」

菜の花だった。


「お前、変わってるな」
彼女はぱっと振り返ると、きょとんとした顔で俺を見る。
「なぜですか?」
「花見って言ったら普通は桜だろ」
「私は菜の花のほうが好きですから」
「……菜の花ご飯って美味いよな」
「へ?」
彼女はびっくりしている。
「菜の花ご飯だよ」
「菜の花って食べられるんですか?」
「……さあ」
「例え菜の花が食べられるとしても、私は絶対に食べません。可哀想ですから」
なんだか分からんが怒らせたらしい。
この女の子はきっと、いや確実に頑固だ。
そう思った。

「下りてみるか」
細心の注意を払って車椅子を押しながら坂をゆっくりと下って花畑に近付く。
「わあ」
「近くで見るとまたすごいな」
遥か向こうの方まで続く黄色。
川の水が陽の光でキラキラ輝き、とても眩しい。
彼女はなにを思っているのだろうか。
そう思い彼女の横に座ってみた。
端正な横顔を盗み見る。
「…こんなに小さいのに、本当にとても綺麗…」
「お、おい?」
彼女は菜の花に触れ、涙を流した。
ポロポロと際限なく落ちていく雫。
「……」
「陽の光があったかい…」
「そうだな」
天を仰いで目を閉じる。

気持ちいい。

ずっと、この陽だまりの下に立っていたい。
こんなこと、今まで一度だって考えたことなかった。

だけど、彼女はそんな気持ちにさせてくれた。



不思議な女の子。



このとき俺は、彼女をそういう目でしか見ていなかった。


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