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嵐が来る前に
【学園物 官能小説】

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嵐が来る前に-5

第二幕 傷付いた心

 その日の昼休み。
 いつもは弁当箱の中身をつついているのだけど、今日ばかりは何も食べる気にならず、静かな場所を歩いている内に本校舎と特別校舎の間にある中庭に、辿り着いていた。
 僕はそのまま誰もいない、屋根つきのベンチに腰掛け、降りしきる雨を見るともなく、答えの出ない考えに更ける。
 今日の天気はまるで、僕の心の中をそのまま投影しているように感じる。
「鳴海、ここにいたか」
「………漆原」
 驚く僕に構わず、漆原は少し間を開けて横に座る。
 そして自分の胸元に片手を突っ込み、何かを探り始める。
「………お前、ひでぇ奴だよな」
「……何のことさ?」
 漆原の真意が分からず、僕は尋ねる。
 しかしそんな僕の質問には答えず、目当てのものを見付けたのか、紅い箱から棒状の物体を引き抜き口元にくわえ……て、ちょっと待て!
「お前、…こんな所でそんなもん……!」
「堂々としすぎて逆に穴場なのさ。
 みんな見てるようで……、見ふぇひぇんだよ」
 煙草に火を点けながら、言葉を続ける。
「『まさかこんな目立つ所で』ってな」
 紫煙を吐き出しながら、漆原は抜け抜けとホザく。

「僕が事故防衛でチクったら?」
 少し意地悪そうに、顔を向ける。
「チクりたきゃ、チクってもいいぜ。
 バレても初犯と言うことで、どうせ自宅謹慎一週間だろうし?」
 一種の開き直りだが、堂々とした男らしいセリフに僕は妙に感心した。
 この口ぶりでは初犯と言っても、まだ捕まった事がないと言う程度の意味だろう。
「お前もやるか?」
「よしてくれ!」
『子供が出来ない身体になる』
 そう思いながら、つき出してきた煙草を押し返す。
 漆原はそれを懐に仕舞い込むと、急に真面目になって、じっと僕をみつめてくる。
「鳴海………」
「な、なによ………?」
 僕は真剣な表情の漆原に、虚を突かれて鼻白んだ。
 ちょっと待て!
 何だ、この間は……?
「片野のヤツ、泣いてたぜ」
 ズキッ!
「……今、…何て……?」
「片野、『鳴海の元気がない。私のせいだ』ってな」
 僕は一瞬、目の前が真っ暗になりそうだった。
 片野さんを傷付けていたことにも、気付かない振りをして……。

 僕は唇の端と拳にぎゅっと力を込める。
「……なぁんてな。泣いてたってのはウソ。
 ホントに分かりやすい奴だぜ」

「でも片野さん、傷付いてたんだろう?」
 煙を吸い込む、漆原の次の言葉を待つ。
「うんにゃ。
 言ってたセリフに嘘はねぇけど、傷付く暇がねぇくらい、鳴海の事を心配してたってだけ」
 漆原はニヤニヤしながら、僕の表情の変化を確かめるように、顔色を伺って来る。
「最初に言っただろ?
 ひでぇ奴だって」
 漆原はベンチにもたれかかって、煙草の煙を吐き出す。
「自分が傷付くよりも前に、お前のことを心配する片野の気持ちに、気付きもしない奴」
 もって回った言い方に、首を傾げる。
「まだ分かんねぇのかよ!?
 お前ってホントに鈍い奴だよなぁ……」
 呆れつつ、煙草の灰を足元に落としている。
「端から見てると丸分かりなのに、何で二人とも気付かねぇかな?」
「えっ!?
 ……それって、……まさか………」
 ひょっとしてと思いつつ、さっきよりも真剣に、次の答えを待つ。
「やっと気付きやがったか、ニブチン?」
 どうでもいいけど、ヒドイ言われようだ。
『だけど、ホントかな?
 もしかして、からかわれてるとか?』
「嘘だと思うなら、告ってみ?」
「ええっ!?
 告…て、……そんな事…」

 僕は顔中が熱くなるのを気付かれたくなくて、俯いた。
「男のクセに情けない奴だなぁ」
 ぷちっ
「………分かった、やるっ!」
「おっ、告る気になったか!」
 僕の力を込めた言葉に、満足そうに白い歯を見せると、まだ吸い終っていない煙草の火を踏み消し、立ち上がる。
「じゃあ今から片野呼んでくっから、ちょっと待ってろ」
「い、今からぁ!?」
 僕は驚いて漆原を見上げる。
「早いに越したことはないだろが。
 それともさっきの言葉、あれは嘘だったのか?」
 疑いの目を向けてくる漆原に、僕はかぶりを振る。
「そっか。じゃ、ちょっくら行ってくらぁ」
 叫ぶ間に漆原は校舎の中へ消えていった。


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