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嵐が来る前に
【学園物 官能小説】

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嵐が来る前に-4

「待てよ鳴海。お前はみたいと思わねぇのか?」
 漆原は僕の後を追ってくる。
「別に……」
『女の身体なんか見飽きたよ』
 そう続けそうになって慌てて口をつぐむ。
「何だよ、つまんねぇ奴だなぁ。
 もしかしてお前、あっち系か?」
「あっち系って何だよ?」
 恐ろしく気になり、つい突っ込んでしまった。
「ホモ………」
「……………」
 その場で凍り付く時間。
「うあ、気色わるっ!」
「あ〜っ、トリハダ立ったっ!」 なんて馬鹿なことを言いながら、僕たちは学校に向かった。

 僕は漆原と別れた後、二年四組の教室に入る。

 まだ一〇人も来てなかったけど、その中に片野さんの姿を認めた。
 僕は先に来ていた皆と挨拶を交して、自分の机の上に通学カバンを降ろす。
「おはよう鳴海くん」
 片野さんが柔らかな微笑みをたたえて、僕に近寄ってくきた。
 僕には出来ない、人を癒すような笑い方をして……。

 片野美弥(かたのみや)。
 小学校は別だったけど、二年続けて同じクラスになった女子の一人。
 最初の席で隣同士になって、何処でも聞くようなやり取りがあってから、女子の中で一番仲良くなった女の子。
 キラキラ光る髪は柔らかそうで、それを背中まで届くくらいに伸ばしている。
 明るくて、困っている人を見たら放っておけないと言う、優しい性格。
 顔も結構可愛くて、二年四組の双壁の一人と漆原は評価する。
 『因みにもう一人はお前な』と言ってきたから、『いったい何の評価だ?』と聞いたら、『可愛い小学生』とホザいてきやがった。(クソッ、漆原の奴!)
 ……とにかく、一年の二学期が終る頃には片野さんの存在は、僕の中でかなり大きな位置を占めるようになっていた。
 そんな矢先の性転換……。
 僕はその時ばかりは泣いた。

 だから僕は、身体の秘密を誰に知られても、片野さんにだけは絶対に知られたくはない。

「どうしたの、顔が暗いよ?
 なにか心配事?」
 片野さんが僕の顔を、覗き込んで来る。
「な、何でもないよ……」
 ドキドキする心臓を、気付かれないかと心配した。
「何でもない事ないよ。それとも私には言えないの?」
 悲しい顔をされたから、僕はつい、白状してしまった。
「来月からの水泳が嫌なんだ……」
「どうして?
 去年はあんなに楽しみにしてたじゃない?」
 片野さんは身を乗り出してくる。
「去年の鳴海くんの泳ぎ、スゴく格好良かったよ。
 あんなに得意なのに、もったいないよ」
『片野さん、僕の事見てくれてたんだ……』
 そう思うと嬉しくなる反面、もうそんな姿を見せることが出来ないと言う悲しみに、僕は益々沈んで行く。
 せっかく片野さんと話せる貴重な時間だったが、水泳の事ばかりが頭の中を渦巻いて、片野さんからみれば気のない返事しかしてなかったんだろうなと、後になって片野さんに悪い事をしたと悔やんだ。

第二幕へ…


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