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嵐が来る前に
【学園物 官能小説】

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嵐が来る前に-6

僕は後悔した。
 漆原に乗せられて想いを伝えると言ったものの、それから先どうすればいいと言うのだろう。
 例え片野さんが僕の事を憎からず想っているとしても。
 いや、だからこそ女の身体が重い。

━━答えは最初から決まっていたはず━━

 僕の瞳から勝手に涙が溢れて、止まらなくなる。
 一年前までは、どんなに辛い思いをしてもこんな風には、ならなかった…。
 こうなったのは女の子の身体に変化してから……。

 以前の僕なら耐えられたのに、今ではもう堪えきれない。
 昔と比べたら、ずっと涙脆くなった。
 時折、通りがかる人影に気付かれないように俯き、声を殺して涙を流す。
 それでも、痙攣するような鳴咽までは止められない。
━片野さんの事が、好き━
━でも、絶対に付き合えない━
━だからこんなにも、苦しい━
━心が痛すぎて、何が悲しいのか分からなくなる━
 押さえきれない感情が、頭と胸を締め付ける。
━諦めるしかないんだ━
━どんなに恋焦がれても━
━終りにしなければならないんだ━
━片野さんを踏みにじる事になっても━
━それは絶対に結ばれない恋だから━
━取り返しがつかない事に、なる前に━
 理性と言う名の、もう一人の僕が頭の中で囁く。
 僕は袖で涙を拭き取り、片野さんが来るのを待つ。 気持を伝える為じゃなく、彼女をフる為に。

「鳴海……、くん?」
 ビクっ!
 遠慮がちにかけてくる声…。
 その声を聞くだけで、誰かはすぐに分かる。
━それが分かるくらい、僕は君の事が好き“だった”よ……━
 僕はゆっくりと、片野さんに顔を向ける。
 まるで壊れ易いガラス細工を見るような目で、僕を見てくる。

「ここじゃ人目が気になるから、付いてきてよ」
 昼食を採り終った生徒たちだろう。
 いくつかの人影が中庭で休んでいる光景を見回し、片野さんの返事も待たずに歩き始めた。
『人目が気になるから…』
 本当はそんな事が理由じゃない。
 さっきのあの目。片野さんの、僕を真っ直ぐ見てくる目が怖かったんだ。
『そんな顔をしないでよ。
 醜いのは僕なんだから』
 ひしひしと罪悪感に苛まれる。
 漆原の言う通り、『酷い奴』
『それならそれで、その酷い奴になりきってやろうじゃないか。
 どうせ振るならボロ雑巾のように、捨てて……やるっ!』

「片野さんの気持ち、漆原の奴から聞いたよ」
 そう切り出したのは、殆んど使われない渡り廊下に着いてからの事。
 彼女もまさか僕がこんな事を言ってくるとは思わなかったのだろう。
 目を見開いて、僕の事を凝視してきた。
「奴には皆お見通しだったらしいや。
 それどころか皆も知ってて、知らなかったのは僕だけ。
 全く笑っちゃうよね…」
「鳴海、……くん?」
 僕が何を言いたいのか、図りかねているのだろう。
 片野さんは不振な表情で見つめてくる。

「けど、迷惑なんだよね……」
 ……ついに言った。
 けど、こんなにも冷たく言えてしまえる自分自身に嫌気がさし、吐気がした。
「どうして……?」
「どうしても何も、………タイプじゃないし…」
 僕の、片野さんへの想いを殺そうとすればする程、自分の表情が能面のように消えていくのを感じる。
 今の僕は彼女から見れば、恐ろしく冷たい顔に見えるだろう。
『これでいい…。
 もう、これで……』

 片野さんは僕をじっと見つめてくる。
 その顔に悲しみの色を湛えて。
 そして次に投げ掛けてくるのは、悲しみの涙か怒りの罵声か…。
 どちらにしろ、僕はそれを甘んじて受ける覚悟でいるし、そうなる事を望んでもいる。
 そのための仮面も装着済み。
 だけど片野さんは、完全に予想外の方向から、バウンズパスを投げてよこしてきた。
「私の事が好きじゃないなら、どうして鳴海くんは泣いてるの?」
「えっ!?」
 思いもしなかった言葉で、付け焼き刃の仮面にヒビが入る。
 片野さんは近付いてくると、手を取って僕自信の頬にその手を導く。
 そこは濡れたような、水っぽい感触。


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