夜に芽吹く向日葵-4
目を覚ますと、彼は横で寝息を立てていた。
私は化粧し、出勤の準備をする。
別に彼を起こす必要もない。
勝手に起きて、勝手に鍵をかけて出て行くから。
クリニックの鍵を開け、処置用具や受付の準備をする。
静かだ…
今日も、たくさんの「元気」な病人が診察を受けにくる。
待合室は、近所の会合の場のようだ。
(私のほうが、よほど病人みたいだ…)
院長は60を超えたが、まだまだ元気で精力的に仕事をこなす。
院長は何故か、性格の閉鎖的で愛想のない私を気に入ってくれている。
「おはよう〜」
院長の長男が出勤してきた。
都内の大学病院で働いているのだが、たまの休みはこうして親のクリニックのヘルプにやって来る。
「おはようございます」
私は視線も合わさず、自分の作業をしながら挨拶を返す。
彼は周りに人がいないことを確認した後、私に言った。
「今夜、食事でもどうですか?」
「夜出歩くのは好きじゃないので…」
酒を断って以来、夜は家で過ごしている。
(いつ来るか分からないあの男のために家にいる訳ではない)
そう、心の中で呟いた。
まるで自分にそう言い聞かせるように。
でも何故だろう…それが逆に自分を苛立たせていた。
「大学病院の、若いナースでも誘ったらどうですか?」
私は、嫌味を含んだ言葉を吐いてしまった。