ジャム・ジャム・ジャム-5
第2章 罠かもしれないな
マヌゥ・シーチ南西部。
スコールと汗に濡れた額を拭いながら、ぬかるんだ道を歩く。
薄気味悪い湿林に沈んだ船は、旧型から新型まで様々だ。
それらは、この星の探索にやって来たものや、もともとこの地にあった文明国家のものだと言われている。
ウエイトレスからの情報が書かれた紙切れには、このマヌゥ・シーチを示す惑星座標の他に緯度と経度とが記されていた。
おそらくそこが、彼女の言う宝のありかだ。
エイジとダナの二人は、そのポイントへ向かうべくひたすら歩いていた。
彼らの乗る船は小型船だが、湿林では飛べない上に地面がぬかるんでいるため着地が出来ない。
だからこうして、なるべくポイントから近いところへ停めて、目的地まで歩いているわけなのだが。
「ぬるぬるするッ、ぬるぬるするわァッ!」
「やかましいッ!」
背後でダナがしきりにそう叫んでいるのに、堪らずエイジが声を上げる。
「なんで裸足で歩いてるんだよ、靴履きゃいいだろ?」
エイジの視線の先には、筋肉質なダナの足。その足元はエイジのようにラバーブーツではなく、裸足だ。
彼はキッとエイジを睨み付けた。
「この前古いブーツ捨てちゃったばっかりなのよ! 新品のブーツ、汚したくないでしょッ!」
そんな返答に、苦笑するエイジ。
「それより、あんたスカイバイクはどうしたのよ? あれがあればひとっ飛びじゃないの!」
「この前クラッシュしたろ? まだ修理に出したままなんだよ」
余程酷いクラッシュだったのだろうか、エイジが言って苦い顔をする。
仕方ないわね、とダナは肩を竦めて再び歩き出すが、やはりぬかるむ泥の感触に愚痴を漏らした。
後ろでひたすらダナの漏らす愚痴を聞きながら、エイジも再び苦笑いを浮かべて前を向いて歩き出す。
膝辺りまで沈む沼の感触はブーツ越しでも気味が悪かった。
(そこまでしてブーツを汚したくないのか?)
おまけにこの辺りには巨大ヒルや沼ゲジゲジなどの生物が棲んでいる。
肌を剥き出しにしていて、それらにうっかり刺されでもしたら危険だ。
(分からねえなぁ……)
あの巨躯に凶悪な面構え、どこからどう見ても男なのだが、その心は完全に女――なのである。
裸足で沼を進むダナをちらりと見やりながら、エイジはそんなことを口の中だけで呟いた。
「ギャアアアッ!!!」
突然、耳を劈く叫び声。ダナだ。
声に慌ててエイジが振り返ると、ダナのふくらはぎに手のひら大のヒルが吸い付いていた。
(言わんこっちゃねえ!)
「ダナ!」
しかしエイジが彼の元へ駆け寄るより早く、ダナは己の足に吸い付くヒルをむんずと掴む。
「ふンッ!」
そして不気味に蠢くヒルを力任せに引き千切った。
「うげえ」
エイジが思わずそう漏らす。
その顰められた顔は、身体を千切られ沼の中に沈み行くヒルと、そのヒルを真っ二つにしたダナの馬鹿力のせいだ。
この辺りに棲むヒルなど、そうそう千切れるものではない。
ダナはほっと胸を撫で下ろして、エイジに視線を移して言った。
「ああン、怖かったァ」
「あんなにしといて良く言うぜ」
完全に沈んだヒルを横目で見つつ、エイジは肩を竦めたのだった。