ジャム・ジャム・ジャム-22
「あんなふうにさ。『嫌い』『歌わされてる』って思わないで、何も考えずに歌ったら、気持ちいいんじゃねえの?」
「………」
エイジが言うと、ジャムは真顔で彼の顔を見つめ、黙り込んだ。
まじまじと自分を見つめるその視線に耐えられなくなり、エイジは落ち着かなげに視線を泳がせて言った。
「何だよ、急に黙り込むなよ」
「……ん、そうなのかなって思って」
ジャムは言って、再び笑みを浮かべると照れ臭そうに小さく言う。
「ありがと」
そして、その照れ臭さを誤魔化すように彼女は笑った。
「改めて、よろしくッ!」
――おそらくは疲れているからだろう。もしくは低血圧なのか。
ジャムが彼ら二人のトレジャーハンターの元へ転がり込んでから三日目の昼。
お天道様が空に輝く時分にもかかわらず、ジャムは泥のように眠っていた。
そんな彼女を置いて、エイジとダナの二人は三日ぶりにジョナ・ダイニングへやって来た。
今日のブランチは何にするかな。またワンコインでいいじゃない。
そんな他愛ない会話をしながら、店に入る。
しかし。
「「???」」
自分のことにしか関心のない筈の、ジョナ・ダイニングの常連達。
それが、何故か今日に限って、二人が入ってくるなりその視線を一斉に二人へ向けている。
やがて疑問符を浮かべる二人の前に、あの新人ウエイトレスが姿を現した。
「おッ♪」
エイジが好色そうな表情を向けるがしかし、彼女のスマイルが一転して冷たいものに変わる。
突き刺すような視線を受け、ダナは傍らのエイジに問うた。
「エイジ……あんた、何かした?」
「何にも」
二人を睨み付け、ウエイトレスは制服のスカートを太腿まで持ち上げた。
無論、『サービス』というわけではない。
彼女は腿のベルトから小型のレイガンを抜き――それをエイジとダナに突きつけた。
「「!?」」
「トレジャーハンターエイジ並びにダナ・ダイン。チュール・コンフィ・ド・マーマレイド嬢誘拐の疑いで」
ウエイトレスは言いながら、左手で丸められたポスターを広げた。
「「!!」」
エイジとダナが驚いたのも無理はない。
『銀河の歌姫を誘拐! 極悪誘拐犯に100万G』
そんなコピーの下には、二人の顔写真と名前が書かれている。
ポスターには、紛れもなく賞金首となったエイジとダナがいた。
チュイン、とウエイトレスの放ったレイガンが、エイジの逆立てた黒髪をほんの少しだけ焦がす。
「でええええッ!?」
先日の営業スマイルはどこへやら。
ウエイトレスは冷たい表情と抑揚のない声で、こう言い放ったのだった。
「逮捕します」