ジャム・ジャム・ジャム-20
「マジ、で?」
「さっき、酒場で情報屋から聞いたしスクリーンのTV放送も見たわ」
ダナが深く頷いた。
「……どこかで見たことのある顔だと思ったのよ。エイジは入院中だったから、知らなかったのね」
彼はそう言うと、ジャムに視線を向けた。
暫く俯き沈黙していたジャムだったが、彼女はその拳を震わせながら顔を上げた。
「家出してきたの! あたしはもうあんな家には帰らない!」
「あなた、自分の立場分かってるの!? 家出なんて簡単に言うけど、あなたの家出はそんな軽いものじゃないのよ!」
ダナの叱咤に、ジャムは言葉を飲み込んだ。
「ッ」
「ポリスボックスは、ステーションの隣りにあるわ。今日一日は泊めてあげるから、明日行きなさい」
言って踵を返し、ダナは再び俯くジャムに背を向けたままで言った。
「………」
イエスもノーも、ない。
ジャムは唇を噛み締めていた。
ダナは小さく溜息をついてから振り返る。
困惑した表情をするエイジの傍ら、ずっと下を向いているジャムに声をかけた。
「ジャム。アタシはあなたのためを思って……」
「あたしのためを思うなら!」
ジャムが声を上げる。
「あたしのためを思ってくれるなら、お願いだから、あたしを匿って!」
「ジャム」
「あたしは……真っ平なの」
そう言う彼女の表情は、悲痛に塗れたものだった。
「歌うのが好きだった――昔から。あたしのパパはあたしの才能を見込んで、歌手にしてくれた。嬉しかった、最初はね」
「でも、好きでもない歌を歌わされて、好きな歌が歌えなくなる。笑いたくないのに笑わされて、媚びたくないのにお偉いさんに媚びなきゃならない。
お淑やかにしろ、マナーを守れ、スカートを履け、用もなく外に出るな。……そんな生活が嫌だったの。何もかも縛られた世界で、息苦しくなった」
「知ってるでしょ? あたしのお爺ちゃんはトレジャーハンター。あたしは、その血を受け継いでるんだなぁって思ってた。
いつも冒険小説にドキドキしてた。あたしもこんな冒険してスリルを味わってみたいと思ってた」
そこまで言うと、ジャムは顔を俯かせた。
「でも、パパはそれを許さなかった」
ジャムの父ミナック・ド・マーマレイドは、オーレガン・マーマレイドの財を元手に一代で貿易商社を築いた敏腕トレーダー。
親子二代に渡るその功績を称えられ、マーマレイド家は惑星プロヴァンスの名家のひとつとして数えられ、また貴族の地位をも得た。
だからこそ父親にも誇りというものがあるのだろう。
「娘には、貴族相応の暮らしと躾をってか」
エイジの言葉に、ジャムは小さく頷いた。
彼女は薄っすらと自嘲的な笑みを浮かべ――
「あたしは――あんなところに戻るのなんて真っ平だわ。だったら、此処で天国に行った方が楽」
言って、44オートマグの銃口をこめかみに押し付けた。
「こッ、こいつ、いつの間に!?」
「こンの、馬鹿エイジッ! 自分の得物くらいちゃんと管理しなさいよッ」
ダナが青筋を浮かべてエイジに怒鳴りつける。
自分の得物を奪われて驚いたものの、しかしダナに答えるエイジの声は妙に落ち着いていた。
「うるっせえ、安心しろ! あの銃は女なんかに扱えるような代物じゃねえんだ」
エイジでさえ、そのグリップの握りが甘いだけで打てなくなるような銃だ。
ジャムのような細い少女がこのオートマグを使うことなど出来ようか。
しかし、ジャムはくすりと笑う。
拳銃を両手で持ち直し、銃口を自身の顎につけると、引き金に両の親指をかけた。
「――本当に、そう思う?」
言う彼女の声は静かだった。
打てる筈がない。しかし、打てないとも言い切れない。
今の彼女の状態なら引き金を引けばあるいは――