ジャム・ジャム・ジャム-17
「きゃあああ――――ッ!!」
ジャムが悲鳴を上げた。
同時に、ボディソープのボトルがエイジの額に直撃する。
「でッ」
「この、覗き魔! 変態! エロ本コレクター!!」
(誰がエロ本コレクターだ、コラ……!)
薄れ行く意識の中でエイジは思ったのだった。
「で、覗きをしたってわけじゃないのね?」
「だから、そう言ってんだろ!」
買い物から帰ったダナがシャワールームを見やると、割れた額から血を流し仰向けに倒れているエイジの姿と、必死にシャワーを止めようとするジャムの姿があった。
彼女の言い分によるとこうだった。
シャワーを浴びていたのだが、あまり水の出が良くないので、固いコックを思い切り捻ってみたところ、コックが外れてしまった。
コックが壊れたせいで、今度は水が出過ぎるようになってしまった、と。
そんな時に現れたエイジ。覗きをしているものだと思って、ボディソープを投げてしまった――ジャムはそう語った。
「確かに確認しないでシャワー室に入ったのは悪かったけどな、俺は中にダナがいると思ってたから……」
「アタシは買い物に行くって言ったじゃない」
「……寝ぼけてたんだよ」
どう弁解しても無駄なのだろうか。エイジは半ば諦めたように溜息をついた。
もっとも、彼女の裸を見てしまったのは事実である。
(やっぱ、デカかったな……)
「………」
彼女の驚いたような顔と、無防備な胸が頭の中に浮かぶ。
無意識的にエイジは手のひらをわきわきと開閉させていた。
「やらしい手付き」
その声に、どきりと胸が鳴る。
「なッ、ち、違う!」
「何が、違うのよ。あたし、まだ何も言ってないけど」
じと、とジャムがエイジを睨み付けた。
エイジは睨み返そうとしたが、思わず圧されてしまって視線を横に逸らした。
「覗きはしてないとしても、あたしの裸見たでしょ!」
「うるせーよ、てめぇの貧相な裸なんか見て誰が喜ぶか!」
「コラコラコラ」
再び言い合いを始める二人を、再びダナが諌めた。
彼はエイジの前には工具、ジャムの前には買い物袋を置く。
「エイジはシャワーの修理、ジャムはこれを冷蔵庫に入れておいて」
言ってから、ダナは行き先を告げずにまた外に出て行ってしまう。
残された二人は顔を見合わせ、ふう、と息をついた。
エイジは無言で立ち上がると、工具を手にシャワールームへ向かう。
それを見てジャムも、買い物袋の中身をテーブルの上に並べた。
パンと卵と小麦粉、ハム、そしてマーマレードジャム。
ジャムはマーマレードの小瓶を手に取り、じっとそれを見つめる。
「………」
そしてぼそりと何ごとか呟くと、彼女は食材を袋に詰め直してキッチンへと入って行った。
「くそッ、風邪引くぜこりゃ」
大きなくしゃみひとつして、エイジはシャワーのコックを閉める。
ようやっとシャワーを直したのだが、作業途中に思い切り冷水を被ってしまったのだった。
びしょ濡れになった服を脱ぎ、再びくしゃみをして鼻を啜るエイジ。
バスタオルを被ってシャワールームを出ると、彼はふと耳を済ませた。
「?」
どこからか、歌が聞こえる。
ダナがラジオでも流しているのだろうか。
エイジの足は自然と、歌の聞こえる居間へ向かっていた。
日の暮れかけたギャラクティカの街は、原色のネオンで眩しい。
住宅区といえどそれは例外でなく、この三階の窓から外を眺めると、向かいの酒場の看板がぼんやりと赤い光を湛えていた。
そんな街の様子を眺めながら、ジャムは歌っていた。