ジャム・ジャム・ジャム-13
「あああああ」
「文句があるなら別に作りなさいよ」
ダナが恫喝するように低い声で言って拳を震わせると、流石にエイジも押し黙る。
「ジャム、待たせたわね。トーストスープ作ったわよ」
ジャムを優しく揺すり起こし、ダナは湯気の立つスープ皿を彼女の前に差し出した。
その声にジャムは上体を起こすと、ふんわり香るコンソメスープのにおいに喉を鳴らす。
このスープを口にした瞬間、ジャムが再び気を失ってしまうのではないか。
エイジはそう思いながら、ジャムがゆっくりスープを口に運ぶのを、黙って見つめるしかなかった。
だが。
「ん……美味しい」
ジャムがごくん、とスープを飲み込んだ。
「でっしょォ!」
「うそぉ!?」
そしてもう一口、スープを吸ってやわらかくなったトーストを口に運ぶ。
信じられない、といった様子のエイジはジャムの肩に手をかけて言った。
「おい、世辞なんかいいからな? 不味かったら残せよ?」
「ちょっとあんた、殴るわよ」
ジャムはくすりと笑って言った。
「本当美味しいよ。甘すぎる気はするけど、お腹空いてるからちょうどいい」
ほらね、とダナがにやりと口元を吊り上げてエイジを見やった。
エイジはむっとした様子を一瞬だけ見せるも、素直にダナに言った。
「……悪かったよ」
「あんたも食べたかったら言いなさいよ。あ、アタシコーヒー淹れてくるわね」
ダナは嬉しげにそう言うと、再びキッチンへと入って行った。
その様子を眺めながら、ジャムが言う。
「あんなナリしてるけど、ダナって家庭的なのね」
「心は女、だからなぁ」
エイジは苦笑を浮かべてそう言った。
そして彼はふと、ジャムが何か言いたげに自分を見つめているのに気が付く。
「な、何だ?」
「……手」
ジャムが呟き、少しだけ視線を落とす。
落とした先には、肩に添えられたエイジの手。
「あッ!? わ、悪い」
慌ててぱっと手を離し、エイジが謝った。
また妙な沈黙が流れ、気まずそうにエイジが頭を掻く。
ジャムは無言でスープを啜った。
そして、あっという間にトーストスープを片付けてしまうと、ふうと息をつく。
「あのさ」
ジャムがスープ皿を置いた。
彼女は真っ直ぐにエイジの瞳を見つめ、幾らか緊張したような面持ちで言った。
「あんた達を見込んで、お願いがあるの」
「お願い?」
「あたしを、この船において!」
ジャムのお願いに、エイジは言葉を詰まらせた。
「おいてって言われても」
自分ひとりの判断には任せられないが、それ以前に彼女をおいておけない理由もある。
「此処最近トレジャーの情報がさっぱり入ってこねえんだ。おかげで収入もなし。人ひとりおいておける余裕なんかないんだよ」
「平気よ、あたしだってトレジャーハンター。自分のご飯くらいは自分で稼げるわ」
「部屋もない」
「この狭い船に二人で住んでるわけじゃないでしょ?」
「……男二人だぞ」
「男一人に女一人、でしょ」
「何騒いでンのよ、うるわいわねェ」
二人の言い合いに、ダナがひょっこりとキッチンから顔を出した。
エイジは立ち上がり、ダナの元までどすどすと歩いて行くと、この言い合いのいきさつを話し始めた。