社長と秘書の、とある夜の秘め事-2
「久しぶりだな…お前の部屋に来るのも」
俺は松本の部屋に着くと松本を抱きかかえた…いわゆるお姫様だっこというやつだ。
「ん…雪人…ありがと」
松本が俺の首に手をまわしてくる。
シャツからちらりと覗くふくよかな胸が俺に押し付けられた。
少しドキッとしながらも、俺はベッドまでたどり着く。
ドサリ、とベッドに体が沈む音。
俺は布団をかけてやる。
この部屋で何度か夜を過ごしたことがある。
相変わらず殺風景な部屋だ。
俺が、秘書課の坂下麗(さかしたれい)と付き合うようになって、もうすぐ1年がたとうとする。
松本には、彼女ができたかと聞かれて、
『社長に特定の人の女の香水の匂いがつくことなんて今までなかったのに』
って言われたな、そう言えば…
「俺は帰るよ。
明日は土曜だし、ゆっくり寝るんだぞ」
と言って立ち上がろうとすると、グイッとスーツをつかまれた。
もちろん、松本に、だ。
「帰ら…ないで…」
「…松本。
何言ってる、俺を困らせるな」
「帰らないで…
たまには、甘えさせて…雪人」
ああ…
俺は、こいつの何を見てたんだろう。
俺は松本の気持ちをあきらめさせようと努力してたけど、ただの割り切った関係だと思っていたけど。
松本は一度も俺に気持ちなんて伝えたことはなかったし、わがままだって言わなかった。
割り切った関係の中で甘えてきたことなんてなかった。
なぜだか…もっと優しくしてあげればよかったのかと、それは同情なのかもしれないけど。
もっと別のやり方があったんじゃないかと思えてくる。
「お前…それがどういうことかわかってるのか?
俺だって、男なんだぞ…」
「わかってる…」
「…!!」
抱き寄せて、俺にキスしてくる松本。
舌が俺の唇の中に入ってくる。
まるで生き物みたいに…
「バカ…松本、何やってる!」
俺は松本を引き離そうとする。
だけど、松本は俺の手を引っ張った。
「雪人…一緒にいて、お願い…」
…そんな目で…見るな。
「ね?いいでしょ…?」
泣きそうな、目。
何で今になって甘えてくるんだ。
俺には彼女がいて、お前にも付き合ってるやつがいるんじゃないのか…?
「一度…だけだ。
今日だけだからな…」
俺は、松本の布団をはぎとると、覆いかぶさるようにしてキスをした。
自分から能動的に、松本にキスをしたのは多分初めてだ。
松本は俺の首に手をまわして、自分からも舌を絡めてくる。
麗のとは違う、官能的なキス。
唇を離すと、首筋にもキスを落とす。